第20話 適正価格


転生33日目の夕方。



タンクさんに遭うために肉卸店を訪れた。


昨日、ブラックウルフとレッドウルフの買取りをお願いしたのだ。流石にエドもBランクモンスターの素材を納品した事がないので、どの程度になるのか知らない。


楽しみでありつつ、本当に買取ってくれるのかとの不安もある。




「タンクさん、こんばんは。ブラックウルフは売れましたか?」


「エド、それがよ・・・。売れるには売れる目処が立ったんだが。ちょっとな。」


タンクさんの歯切れが悪すぎる・・・。


「・・・そうモジモジしてても始まらないし、どうしたんですか?」


「それがよう、ある奴に会って欲しいんだわ。そうすれば、適正価格でとのことだ。」


「・・・あぁ〜〜やっぱり、そういうことですか。」


俺も少しはこんな事になるんじゃないかと思っていた。この辺りでは、Bランクモンスターを狩る冒険者があまりいない。


商人達の情報網からすれば、Bランクモンスターの素材が冒険者ギルドに入ればすぐに分かる。しかし、その情報が無かったということは、新たにBランクモンスターを討伐できる者が現れたことを意味する。


そうなると、他者より先にその情報を手に入れ、あわよくば独占し、収益を最大限に上げようと思うのが商人である。


「どうだ?召喚獣を見せるまでは知なくて良いと思うが・・・。そうなると信用知てくれない可能性があるか・・・。」


「分かりました。大丈夫ですよ。」


「ほ、本当か!?良かったぜ。俺もまさかこんな事に成るとは思って無くてよ。テキサス商会にそっぽ向かれると、商売上がったりになる所だったぜ。」


タンクさんは安堵の表情を浮かべている。今回の話をそのテキサス商会へ持って行った際に、俺を紹介出来なかった場合、変な条件を付けられたりしたのだろう。


まあ、冒険者ギルドに報告が入っていないBランクモンスターの売買だ。何か裏があると考えて、慎重になるのも頷ける。


「それで、いつ何処へ行けば良いんですか?」


「おう、そうだったな。明日の朝9時にまたここへ来てくれ。」


「わかりましたよ。じゃあ、明日はよろしくお願いします。」





◇◆◇◆◇◆



転生34日目の朝。


朝食前の訓練の時間だ。2時間みっちりと訓練を実施する。30kgのリュックを背負って、8kgのリストバンドを両手にしている。


この訓練が地味だが、筋力アップと身体強化スキルの効果アップに貢献していると俺は思っている。


ここ1ヶ月近く毎日厳しい訓練と栄養がある食事をして、ガリガリだった体に筋肉が付き始めた。身長も2cm(162cm⇒164cm)ほども伸びた。





孤児院で朝食を取った後、9時前には肉卸店に着いた。


タンクさんは、既にそのお得意先のテキサス商会へ行く用意を整えていた。俺が着くと同時に肉卸店からテキサス商会へ向けて移動する。


テキサス商会といえば、このアイスラン町でも大きな商会の1つである。何度か先日のバイトで素材の運搬で通った事がある。訪れたのは商会の倉庫であって、屋敷ではないが。


今回、俺はタンクさんに連れられて、テキサス商会長の屋敷を訪れた。流石、この町でもトップクラスの商会長の屋敷である。「大きい。」


待合室へ通されて、暫く待っていると、テキサス商会長らしき人物が現れる。年の頃30代中盤だろうか。目の奥に鋭さが感じ取れる人物だ。


「いやぁ〜〜タンク殿、早速の訪問ありがとうございます。して、例の品を卸してくれる人物ですが・・・。そちらの方ですかな?」


その人物は、俺を品定めするような目つきで見てきた。


「テキサスさんの頼みじゃあ断れんでしょう。そして、例の持ち込んでくれたのは、彼です。」


「ほう・・・。」


テキサスさんは俺を見てちょっと考えているようだった。


「タンク殿も馬鹿ではあるまいて・・・失礼だが、この方が例の品を持ってこれるとなぜ信じたのですか?」


「それは・・・。」


タンクさんが声を詰まらせて、こちらを見てくる。そして、そんなタンクさんに代わって、俺が口を開いた。


「失礼ですが、テキサス殿、俺はエドと申します。銅プレートの冒険者をしております。タンクさんは、俺が例の黒い品を持ち込んだ理由を知っています。しかし、それは俺の切り札でもあり、他言無用との条件の元に提示しました。したがって、タンクさんからは明確な理由を聞けないでしょう。」


「・・・。」


「俺は訳があって、今はあまり目立った行動を取りたくありません。しかも、Bランクの素材なんて、冒険者ギルドへ持ち込むことなんて以ての外です。


しかし、それだと納得して貰えないと思うので、少しヒントをお伝えします。つい最近、冒険者ギルドにシキという大男が冒険者登録を行いました。俺はその冒険者を前から知っている。ということです。」


「そうですか、エド殿。今回はここまでで納得いたしましょう。例の品は適正価格で買取りさせて頂きますよ。また、何かあれば言って下さい。」


「分かりました。テキサスさんありがとうございます。じゃあ、早速ですが、これも引き取って貰えないですか。」


俺は背負ってきた鞄から小さな袋を取り出した。開けるとゴブリンから採取した結晶が入っている。


「これは?」


「昨日、ゴブリンの結晶です。念の為に採取しておきました。30個近く入っていると思います。」


テキサスさんは袋の中身を確認する。


「確かにゴブリンの結晶でしょう。しかも、昨日だけでこんなに討伐したんですか?」


「そうですね。訓練の一環でついついやり過ぎてしまいました。ただ、ゴブリンはいくら駆除しても良いでしょ?」


「・・・まあ、そうですね。分かりました、こちらも適正価格で買取りいたしましょう。」


テキサスさんが秘書に何やら指示を出す。暫くすると袋を2つ持ってきた。


「エド殿、こちらがゴブリンの結晶代31個×2,000ニルで銀貨6枚と銅貨20枚となります。タンク殿、こちらが例の品の代金で、金貨4枚となります。素材の状態が良かったので色を付けておきました。」


「「・・・ありがとうございます。」」


金貨4枚と聞いて、俺とタンクさんは驚いている。


「また、何か良い素材が手に入ったらご連絡下さい。その際は、これを店の者に見せて下さい。」


テキサスさんは懐から金色のカードを取り出して俺に渡してきた。


「分かりました。その際はよろしくお願いします。あと、俺とシキとの間のことは、まだ他言無用でお願いします。」


「・・・わかりました。内緒にします。」




今回の取引で、俺の手元には、金貨3枚、銀貨66枚、銅貨20枚が残った。


タンクさんとの取り決めで、手数料は1割と決めており、金貨4枚の手数料として銀貨40枚支払っている。手数料だけでも相当な額である。


まあ、そこは手数料が1割であれば、良心的と考える。



そんなこんなで、商人との交渉という大変大事な経験をした。


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