第13話 決着



レッドウルフへトドメを刺そうした時、物凄いスピードでBランク下位のブラックウルフが現れた。今の俺が相手に出来る訳が無い。



ブラックウルフはレッドウルフを気遣うようにしている。油断というより、余裕を浮かべている様だった。


俺はポーションを右足と右腕に掛けて手早く傷を塞ぐ。痛みは残るが、傷口が塞がり出血は止まった。ポーションはもう所持しておらず、左腕の傷までは回復できなかった。



かなりマズイ状況である。あの遠吠えはレッドウルフでは無く、ブラックウルフだったのだろう。群れのリーダーも多分コイツだ。


「仕方ない死ぬのはごめんだ。更に奥の手を使うか・・・。」


目の前に『忘却の騎士』が出現する。そう『忘却の騎士』は物理攻撃無効の特殊な耐性持ちである。俺の切り札である。


ブラックウルフはそれがどうしたとの感じでこちらを見てきた。流石Bランクに入るモンスターだ。しかし、その余裕もいつまで続くかな?



『忘却の騎士』へは、初めからある指示を出している。捨て身でのブラックウルフの確保である。


肉を切らせて骨を断つ。まあ、『忘却の騎士』は物理攻撃無効だから、肉も切らせずに骨だけ断つ。


思った通り、ブラックウルフの方が『忘却の騎士』よりもスピードもパワーも数段上だ。奴が油断している序盤に捕まえるしか無い。


「チャンスは一度だな。」




俺の放ったファイアアロー4本が、それぞれブラックウルフとレッドウルフへと飛来する。ブラックウルフは自分へ飛んで来たファイアアロー2本を一瞬で躱すと、続けてレッドウルフへ飛んで来たファイアアローを爪でかき消す。多少前足にダメージを受けた様だが、大した事は無い様だ。


俺はブラックウルフの動きがギリギリで見える程である。残像でしか目に見えない。


そして、ブラックウルフが俺の方へ迫ってくると、『忘却の騎士』が俺の目の前に立ちはだかり、ブラックウルフの攻撃を自身の体で受け止める。と同時に抱きつく様な形で、『忘却の騎士』がブラックウルフを羽交締めにした。


ブラックウルフはまだ冷静で、そのまま鋭い牙で『忘却の騎士』の首元に強烈な噛みつきを喰らわす。そして、喉を引き裂こうとしているが、異変に気付いた様だ。


今まではブラックウルフのこの強烈な噛みつきで幾多の戦士は散って来たのだろうが、『忘却の騎士』には効かなかった。


今頃気づいても、もう遅い。俺は『忘却の騎士』の側面へ瞬時に移動しており、そのままブラックウルフの胴体へショートソードを突き刺して、腹を掻っ捌くように縦に振り下ろした。


「キャゥウーーン。」


消えいるような最後の声を出してブラックウルフが倒れた。


「ギャアーウーーン。」


レッドウルフが牙を剥き出しにして、こちらを威嚇するとすぐに飛び掛かって来た。しかし、前足を負傷しており、先ほどまでの勢いが無い。


俺もポーションで回復したとはいえ、右足を負傷していたが、余裕で対処出来る。ただ、念には念を入れて、『忘却の騎士』と一緒になってレッドウルフにトドメを刺した。





強敵だったBランクモンスターを倒した。これは相当な収入源になるだろうと考えていた。


その前に左腕の傷や全身の傷もあり、血液が足らない感じがする。急いで薬草を探して、傷口へ塗り込む。痛みと共に止血された事を確認する。最悪の状態は打破出来た。


そして、お待ちかなのブラックウルフとレッドウルフを担いで川まで行き、そのまま草の蔓で手足を縛って水の中へ沈めて冷却する。


ブラックウルフは内臓が飛び出ているので、川の中で内臓を取除き綺麗に洗っておいた。俺は左腕の傷もあり、薬草を多めに確保して、応急処置しておく。



そういえば、腹が減った。昼食を食べるのを忘れていたので、いつもの様に軽食を口にする。パンに肉や野菜が挟んであるこっちでは比較的ポピュラーな食べ物。サンドイッチである。



その光景を後ろの方から見ている怪しい人影があった。




◇◆◇◆◇◆



良くないことは続くもので、俺が軽食を食べ終えた時のこと。


尿意を催したので、ベルトを緩めてズボンを下ろして、スッキリしている最中。


嫌な気配がして振り向くと、目の前に2本弓矢が迫っていた。頭への弓矢は躱したが、肩へ1本刺さった。身体強化スキルにより防御力も上がっている筈だが、弾けなかった。達人になると、皮膚が鉄の様に硬くなるそうだ。



「次から次へと今日は災難だな。」


すぐに弓矢が飛んで来た方角から死角になる様に木の影に隠れる。


「へへへ。今日はツイてるぜ。元気のありそうな新人ソロ冒険者といったところか。見た目もそれなりに良いし高く売れそうだ!」


「・・・。」


薄汚い2人組が現れた。


「そんな所に隠れて無いで出てこい。そこに隠れてるのは分かってるぜ。俺たちが2人のうちに素直に出て来ないと、後が怖いぜ。」


「・・・。」


1人はよく喋り、もう1人は無口である。にしても、ブラフかも知れないが、仲間でも呼び寄せているのかな?


俺を高く売れるって言い切ったと言うことは、盗賊かチンピラかそんな所だろう。


さあて、どうするかな・・・。



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