第26話 後始末


盗賊の孤児院襲撃は、予定通りのストーリーで衛兵への説明が進んだ。


世間的には無惨にも孤児院が盗賊に襲われて、若い娘と男が連れ去られた。そして、無惨にも院長が蹂躙されたとのストーリーだ。


流石に盗賊たちが返り討ちにあって全員やられたとのことにはならなかった。死体もない。ましてや20人ほどの盗賊を相手に出来る者が孤児院にいないだろうとの調査結果だ。


この事実が報告されて、領主へも報告された。トリートを呼び寄せていたアキクズラ=アイスラン男爵は大層激怒したそうだ。


子飼いの盗賊による領主への裏切り。アイスラン男爵は盗賊達を呼び出すように指示を出すが、結局彼らと連絡が着くことはなかった。


何処かでモンスターの餌となっている彼らだ。連絡が取れるはずか無い。


ただ、アキクズラ=アイスラン男爵は、飽きっぽく熱しやすい。すぐにトリートの事など忘れて、違う女をターゲットにするのであった。








俺とトリートは、日が沈む町中を急ぎ足で歩いている。そして、ある目的地へ着くのだった。


その店にはまだ明かりがあった。


店に入り、いつものように奥へ進んでいくと大きな男がまだ仕事をしていた。


「こんばんは、タンクさん。ちょっといいかい?」


「おう、何だこんな時間に珍しいな。」


「ちょっと、お願いがあって。」


「明日じゃ駄目そうだな。分かった、これが終わったら終了だから、ちょっとそこに据わって待ってろ。」


俺とトリートは、近くの椅子に座らせてもらいタンクさんの仕事が終わるのを暫く待っている。


「待たせて悪かったな。それで、何のようだ?そこの嬢ちゃんも関係あるのか?」



俺はこれまでの孤児院での出来事をタンクさんへ説明した。タンクさんは真剣に俺の話を聞いてくれている。


「そうか、そんな事になってたのか・・・。領主様には、あまり良い噂が無かったが、実際もそうだったんだな。」


「・・・。それで、トリートを少しの間住み込みで雇って貰えないか?こう見えても賢くて頭の回転が良くて気が効くんだ。」


「・・・急だが分かった。エドの頼みだ何とかしてやろう。男共の仕事場なんで、部屋が散らかっててどうにかしたいと思ってたんだ。家事全般を頼みたいんだが大丈夫か嬢ちゃん?」


「はい。掃除、洗濯、炊事、家事全般は何でも任せて下さい。」


「わかった。じゃあ、部屋はそこを使ってくれ。取り敢えず、仮眠室として使ってたから、ベッドはある。シーツは明日自分で洗濯して使ってくれ。」


「はい。ぜひそれでお願いします。」


トリートはタンクさんへ頭を下げて礼をした。そして、俺に向かっても礼をした。


「エドもありがとうね。もう駄目かと思ってた数日前が嘘みたい・・・。領主様の事、孤児院の事、盗賊の事、全て上手くいっちゃた。エドは凄いよ。」


「そんな事は無いよ。たまたまだよ。」


「エド。お前も連れ去られた事になってんだろ。泊まる所が無いなら、トリートちゃんと一緒の部屋なら使って良いぞ。」


トリートがちょっと顔を赤くして、下を向いている。


「タンクさん、揶揄わないで下さいよ。俺達はそんな・・・。」


トリートが俺の腕の裾を引っ張る。


「いや、今日は色々ありましたし、お言葉に甘えて泊まらせてもらいます。」


トリートは、今日盗賊に酷い目に合いそうになっている。そんな状態の彼女をそのまま1人にしておくのも心配になった。


「分かった。毛布は後で持ってきてやるからそれを使え。」


「何から何まですみません。」


「トリートちゃんは今日はゆっくり休んで、明日からバリバリ働いてくれ。」


「はい。ありがとうございます。」


ぐうぅ〜〜。とタンクさんの腹の虫が鳴った。


「ちょっとキッチン借りますね。ここの食材を使って簡単な物ですけど、適当に作っていいですか?」


「それは構わないが、大丈夫か?」


「はい、大丈夫です。何かやっていた方が気が紛れますし。」


「そっか。じゃあ、よろしく頼むよ。」


トリートはそういうとキッチンの場所を教えてもらって、料理を始めた。暫くすると、いい匂いがして来た。


具沢山スープと野菜炒めだった。


「お口に合えば良いのですが。」


「お、うまいなこれ!おかわりだ。」


「うん。流石トリート。」


タンクさんは本当に一気に料理を口に運んでどんどん平らげていった。何度かおかわりをするとあまり作って無かったので、すぐに料理は底をついた。


今日はこれを食べて、すぐにトリートは眠った。





◇◆◇◆◇◆



俺はこれから少し、生かしている盗賊に挨拶をしてくる。


・・・。


夕方俺を尾行していた盗賊を拷問した廃墟だ。俺は、ファイアアローで松明に火を付ける。


そして、薄明かりの中で、ファイアアローを1本出して盗賊の片方の耳に大きなピアスの穴を開けてやる。直径5cm以上の大きな穴だ。


「うぐぅ〜〜。」


その痛みで盗賊が起きるが口に石を入れられてその上に布を巻いて、喋れなくしている。


「よう起きたか?」


「ふへ〜は、はっひの(てめ〜はさっきの)!ほへをほひやばれ(これを解きやがれ)!」


「何言ってるか分かんねーよ。それより、何で俺を狙ってんだよ?ヘラヘラした馬鹿は殺しちまったが、無口野郎はちゃんと生きて返してやったろう?まあ、もうお前たちの仲間は20人(19人+尾行犯1人)全て生きちゃいねーが・・・。」


「っは?はひひっへやはふ!(は?何いってやがる!)」


俺はツカツカと盗賊の近くへ歩いて、盗賊の顎を下から蹴り上げた。口の中には石が入っており、歯が折れそれが口の中に刺さったりしている。


「うぐぐぉ〜〜。」


盗賊は悶絶している。そこへ俺は更に盗賊の顎を蹴り上げる。


「黙ってねーで何か言えよ。また蹴り上げるぞ。って、もう蹴ってるか。ハハハ。」


「ぐぐぉ〜〜。」


「ってか、お前たちが何処に攻め入ったのか分かるか?俺の・・・いやエドの大事にしている場所だったんだぞ。」


俺はしゃがんで、盗賊の頭を持って地面に何度も叩きつける。


「それに、メリーさんとトリートにあんな事するなんて・・・。」


思い出しただけで怒りが込み上げてくる。


俺は、4本の剣を運び屋スキルから取り出す。1本づつ仰向けにした盗賊の手足に突き刺す。剣は床の岩まで突き刺さっており、盗賊の力では抜けない。剣から抜け出すには、自分で手足を引っ張って切り裂くしかない。


俺は1mほどの大岩を取り出しそれを持ち上げる。


「はめほーはめほふへー(やめろーやめてくれ)。」


「早く逃げないと、これでお前を潰しちまうぞ。俺に夕方絡んでき来たやつみたいにな。」


俺が一歩ずつ、盗賊に近づく。盗賊は剣を抜こうとするが、動けば動くほど激痛が走り中々動けない。


ドガン。


剣と共に盗賊の右腕がグチャグチャに潰れた。盗賊が白目を向いて、気を失っている。


そこで、ファイアボールの応用で火の玉を出し腹の上に置いてやる。ジリジリと肉が焼ける匂いがする。


盗賊が熱くて飛び起きる。


今度は見える盗賊に見えるように火の玉を出現させ、下半身を焼いてやることにした。


「ぐああががぁぁ〜〜〜〜〜。」


「これで、メリーさんやトリートに悪さ出来なくなったな。めでたしめでたしだ。」


俺は徐々に虚しさが湧いてくる。そこで、こいつへの拷問を終わらせ、ストンと首を落とした。


「何か虚しいな・・・。」


それから、盗賊の死体を運び屋スキルで仕舞い、トリートの元に帰ったのだった。







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