第2話 エドの記憶①

エドの記憶(回想シーン)。


エドは12歳の『スキル恩寵の儀』で召喚スキルを授かった。アタリの召喚獣を引けばいろいろな場面で活躍できる。



力持ちな召喚獣なら運搬や肉体労働なども可能だ。また、収納系の召喚獣なら商人達に重宝がられる。凄い可能性を秘めているが、中々そんなレアな召喚獣は引けない。


また、召喚獣の知力次第だが、細かい指示が出来ない。正確には細かな指示をしても、召喚獣が理解出来ない事が多い。


召喚スキルは教会で祈りを捧げる事により、召喚獣を受け取れる。これを俗に召喚獣を引くと言う。30日経てば次の召喚獣を引く事ができる。ただし、ストックできる召喚獣は1体のみである。このストックが1体のみであるが故に召喚スキルは最弱と言われている。


多数の召喚獣をストック出来て、複数の召喚獣を出せれば召喚士は最強といえよう。



冒険者を目指すなら、自信を強化出来たり、戦闘に役立つスキルが望まれる。その点、召喚士は召喚獣に戦闘を任せて、自信は逃げ回るので軽蔑される事が多い。


PTにおいて、最初こそ召喚士だから仕方ないとなるが、日が経つにつれて、PT内で軽蔑される。命を賭けた戦闘があった日には尚更だ。そして、最終的に蔑まれてソロとなる事が多い。



そんな召喚士の中でも、エドは自分でクエスト前に野営の準備、食糧の確保、料理、武器の手入れ、情報収集、ポーター、斥候、後方からの支援などと冒険者PTへの大きく貢献している。


3年間やれる事をやって、PTに貢献しているとエド自身では思っていたが・・・仲間はクズ職なら当たり前だと、エドの頑張りを全く評価していなかった。


PTを組んで以降、日に日にエドの扱いは酷くなっていった。探索で上手くいかない事があると、酷く殴られる事が増えていった。


その痛がるエドを見て、PTメンバーは胸がスッキリする。「お前はモンスターの相手もしないで、怪我もせずに隠れてるんだから、俺たちのストレスくらい受け止めろよ!」などと理不尽な理由である。


PTに在籍しているのにも関わらず、報酬は皆の1/4程度有れば良い方だ。


エドが唯一評価されている点は、召喚獣のウルフが斥候として役立っていた点だ。ウルフは匂いで敵の位置を探り、モンスターの不意打ちを高確率で回避していた。



2年半続いた斥候の活躍があの日に終わってしまった。戦闘でエドの召喚獣のウルフが死んでしまったのだ。


何とかPT全員無事だったが、モンスターの不意打ちで手傷を負った。エドのウルフが自信を犠牲にしたお陰でこの程度で済んだのだ。


それから直ぐにエドはPTを追放されてしまう。




「なあ、エド。お前はこのPTから追放だ。今までありがとうな。これは俺たちからの餞別だ、受け取れ。」


リーダーのホタンがエドへ投げて寄越した袋には、数枚の銅貨しか入っていなかった。それを見てPTメンバー達は、笑っている。


「ホタン、何で突然このタイミングなんだよ!今まで3年間も皆んなの為に頑張ってきたじゃないか!」


「っけ、本気でそんな事思っているのか?お前はクズでカスで何も出来ねぇーじゃないか!」


「そうよ。召喚獣のウルフが居てやっと半人前なのよ、あんたわ。」


「そうだ、そして前回その半人前の働きをしていたウルフが死んじまったし、もうお前には何の価値も無いだろう? 何かあるか?エド。」


「・・・俺のウルフは、皆んなを助ける為に犠牲になったんじゃないか!」


「何言ってんだ。あいつがちゃんと周囲のモンスターの接近に気づいたいれば、あんな危険な目に遭わなかったんだろうが!元を辿れば危険な目に遭ったのは、あの犬っコロの性だろうが!」


ホタンの機嫌が悪くなり、エドは胸ぐらを掴まれて押し飛ばされ、勢いよく尻餅をついた。


勝手な言い草と思うが、PTメンバーは役に立たない俺の召喚獣が悪いとの意見で一致しているようだ。エドの味方をしてくれるメンバーは今ではもう居ない。


「エド。お前がどう叫こうがもうPTメンバー全員の総意だから、お前が追放されるのは決まった事だ。それに退職金も渡したしな。ククク。」


エドは銅貨数枚が入った袋を悔しそうに力一杯握っている。


「っく。でも、今度の召喚獣がレアな奴かも知れないだろ?」


「3年間もずっとザコばっか引きやがって、今更レア引き何てないだろう!まあ、もしレア引きでもしたら、考え直してやるよ。じゃあなクズ職君。」


最後にホタンはそう言って、エドをPTハウスから追い出した。




エドがここまでPTに固執しているには理由がある。それは寝床と食事だ。


エドが所属していた銀プレート中級冒険者のPT【グリフォンの翼】は、そこそこの稼ぎがあり、PTハウスを持っていた。


そのため、狭いながらエドにも個室があった。最近ではPT共有の荷物が持ち込まれて、物置のになりつつあるが個室だ。そして、掃除・洗濯・炊事などエドが一手に担っており、料理の最中には味見としてつまみ食いをして腹を満たしていた。


多少の蓄えがあるが、このPTハウスが無ければ、生活が成り立たない。野宿で食事もままならない状況に陥ってしまう。


エドは絶望のまま、縋るような思いで協会へ歩いていった。


気づくと協会の中に入っており、祭壇の前に跪き両手を顔の前に起き目を瞑って祈りを捧げていた・・・。


「神様・・・俺にも少しは夢を見させて下さい。お願いします。」


『召喚獣『忘却の騎士』を獲得した。』


『ストック枠が空いているため、ストックされました。』


「っぇええ〜〜〜〜〜!」


エドは他の人が居るにも関わらずに大声を出してしまっていた。周りの視線に気づくと慌ててエドは口を押さえて、周りにペコペコとお辞儀をしながら協会を出ていった。


先程の事が夢だったのでは無いかと少し不安になりつつもエドが召喚獣を思い浮かべると、『忘却の騎士』が思い浮かぶ。


ウルフと同じ様にシンクロしている感じだ。これで、『忘却の騎士』をいつでも召喚することが出来る。


エドはまさか本当にレアまでは行かないが、中々良い召喚獣を引けたので、【グリフォンの翼】へ戻ることを考えてしまった。


しかし、冷静になって考えた。どうせ戻ったところで今までの待遇が改善されることは皆無だろう・・・。


だったら、大変かもしれないが、ソロで活動した方が最終的に最善だとの結論に至り、そこからエドのソロ活動が始まった。

























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