第3話 エドの記憶②


エドのソロ活動初日。


エドは初心者が通う、このアイスラン町から西の森へ向かっていた。


薬草集めとハイラビット討伐のためであった。この2つは、常時クエストといって、別にクエストを受ける必要が無く、薬草の納品や討伐部位の納品で完了する。


勿論、ハイラビットの様なモンスターを丸々持参すれば、食料や素材として買い取ってくれる。


冒険者ギルドを訪れクエストを受注しなくて良いので、元PTと鉢合わせする可能性も低くなり、好都合である。





4時間後。


ソロになって大成功であった。西の森で近づいてくるモンスターは、忘却の騎士が倒して持って来てくれる。エドは討伐部位を確保すれば良いだけだ。それ以外の時間は、薬草を採取している。一石二鳥だ。


4時間で、薬草23本、ラビット7体、ハイラビット3体、ウルフ2体の成果である。


薬草23本×200ニル、ラビット7体×100ニル、ハイラビット3体×800ニル、ウルフ2体×1,200ニル。合計:10,100ニル。


銀貨1枚と銅貨1枚になった。


これまで、稼いだ事がない額だ。安宿なら1泊素泊まり2,000ニル(銅貨20枚)。食事も普通の安い所なら、1食500ニルで食べられる。自炊すれば、もっと安いだろうが、調理場が無いので無理だ。


まあ、あそこ孤児院に転がり込めば、ただで寝泊まりは出来るかも知れないが、それは最悪の手段だな。






そんな生活を10日ほど続けていたら、元PTメンバーのホタンとギルド内で再開した。


「ようエドじゃねか。クズ職なのに元気にやっているようだな・・・。」


ホタンは蔑む目をエドへ向けて嫌な笑みを見せる。エドはホタンを嫌そうな目で見る。


「まあ、レアでも無いけど、まあまあな召喚獣を引けて、地道に頑張っているよ。けど、PTメンバーなんだから、もう俺の事なんてどうでも良いだろう。」


「ふ〜ん。クズにしては、稼いでいるようだな。ここ10日間で20万ニル以上だって言うじゃないか。」


「・・・そんなだったか? 流石にクズな召喚士の俺がそこまで稼げる訳ないだろう・・・。」


「・・・っは。何の召喚獣を引いたか分かんねえが、粋がるんじゃねぇぞ。」


ホタンはエドの方へ歩いて、ワザと肩をぶつけて立ち去っていった。


「とうとう見つかってしまったか・・・。」


エドはホタンがワザとギルドで待ち伏せして居ることに気づき、危機感を覚えた。何か変な事が起こらなければ良いけどな・・・。






それから数日、特にホタン達からの接触は無かった。エドは自分の考え過ぎかと少し気を緩めていた・・・。


いつものよう西の森へ向かってアイスラン町を出発した。その後ろ姿を遠くから観察する人影があるのを知らずに・・・。




エドが今日の目的の場所に着きいつものように『忘却の騎士』を召喚して、周囲のモンスターの駆除を頼んだ。エド自身はいつもの通り薬草採取だ。


いつもなら数匹はモンスターを倒してくるのに今日に限って『忘却の騎士』は戻って来なかった。


心配になり、エドは『忘却の騎士』との繋がりを感じ取り歩き出した・・・。


近くで戦闘音が聞こえる。その音は忘却の騎士がいる方向から聞こえて来ている。周りを警戒しながら進んで行くと、見たくもない面々がそこには現れた。




【グリフォンの翼】が『忘却の騎士』を相手取って戦っていた。


ホタンとフラックの攻撃が『忘却の騎士』にヒットするが、『忘却の騎士』は全くのノーダメージだった。逆に無防備で攻撃を受けて、カウンターを狙っている。ただ、ピットが放つファイアアローを警戒しており、大きく飛び退いて躱していた。


エドは『忘却の騎士』の特性を把握していなかった。



<忘却の騎士>

皆に忘れ去られた過去の騎士。騎士は自分の存在を周りに示すために、真っ白な武具を全身に纏っている。そして、その騎士の思いが呪縛となり、全身を光のオーラで包まれ特性を持つ。


『忘却の騎士』は、完全物理耐性があるのである。




十数分後、ホタンが苦し紛れに至近距離から放った生活魔法の火が、『忘却の騎士』にヒットしてしまう。


魔法耐性ゼロの『忘却の騎士』は、生活魔法といえ火魔法を受けて竦んでしまった。そこへホタンとフラックの物理攻撃が入るがやはり、ダメージを受ける気配は無かった。


ただ、ピットのファイアアローが『忘却の騎士』の左腕にヒットし吹き飛ばした。


「忘却の騎士!!もう良い戻れ。」


エドの声に呼応するように『忘却の騎士』が消えてた。


「何だよエド。これから良いところだったのに。」


「何が良いところだっただよ。『忘却の騎士』は俺の召喚獣だぞ。それを何で攻撃してるんだよ。」


「はあ?モンスターじゃ無かったのか?俺たちを襲って来たんだぞ!?」


【グリフォンの翼】メンバーが全員、ニタリと含みのある笑いを浮かべる。


「そうよ。私達は正当防衛で退治したに過ぎないわ。それよりも、アレがあなたの召喚獣だったのなら、この代償はどう取ってくれるのかしら?」


「何をいっているんだ・・・。召喚獣が何も指示を出さないで人間を襲うわけ無いだろう。逆に自分の身を守るように指示してあったから、襲ったのは、お前たちの方だろう!」


「なんのことかしら?私達は何もしていないわよ。そっちがこちらを襲って来たんでしょ。ねえ皆?」


「「「ああ。(そうだ。)(うん。)」」」


皆ヘラヘラと笑いながら答えてきた。


「ところでエド。良い召喚獣を引いたじゃ無いか?また俺たちの元に戻って来ないか?物理耐性がある召喚獣なんて重宝しそうだ。これまでより、少しは報酬も増やしてやっても良いぞ。」


「・・・・・本気でそんな提案してるのか?今まで俺にしてきた仕打ちを忘れた訳じゃないだろ?」


「はあ何のことだ?これまで、3年間もクズなお前の面倒を見てきてやったんだ。感謝されてもそんな態度を取られるなんて・・・気に食わねな。」


ホタンがエドへ駆け寄ってそのまま腹に一発蹴りを入れた。エドはモロに腹に蹴りを受けて腹を押さえて尻もちをついて呻いている。


「なあ、またPTへ戻ってくるよなあ?」


ホタンがエドの髪の毛を掴んでそのまま上に持ち上げて、エドの顔を無理やり起きあげる。


「ぅぐぐぐう。こ、こんな事されて、てめぇーらみたいな所に喜んで戻る訳ねーだろ。そんなことも分かんねのか、脳ミソが足らない奴はこれだから嫌だぜ。ぐっふ。」


ホタンが先程より強くエドの腹に蹴りを入れる。


「クズのくせに言うようになったじゃねーか。良い召喚獣を引いたからって、ここまで言われてお前をPTへ戻すのもねえな・・・。」


その後、【グリフォンの翼】の面々から、一方的に蹂躙されてボロボロな状態だった。




そして、ホタンはエドの片足を持って、エドを引きずりながら森の中を歩いている。


エドはボロボロでまともに立つことすら出来きずに引きずられている。


気づくとエドは引きずられずにその場に仰向けに寝転ばされていた。


「じゃあな。」


エドの側からホタン達が離れて行くのが分かった。助かったのかと思うのも束の間、2匹のゴブリンが近づいて来るのが目に入った。


この世界は、他人を殺すとその記録が魂に刻まれる。だから、グレーゾーンであるが、最後のトドメを他者(モンスター)に殺らせて殺人の記録を回避する。


ただ、他人を殺した記録が刻まれた者を殺した場合、殺人と魂に刻まれることはない。端的にいうと盗賊などを討伐した場合は、対象外となる。どうやって、判別しているかは、神のみぞ知る。



ゴブリン達がニタニタと不愉快な笑みを浮かべておもちゃを見つけたようにゆっくりと近づいてきた。


「っぐ、だ、だれか・・たすけ・・てくれ。」


エドは必死になって這いつくばりながらも、ゴブリンから逃げる。ただ、重症を負っているため、殆ど移動出来なかった。


そして、次の瞬間・・・。


ゴブリン達が互いの武器を振り上げて、エド目掛けて振り下ろした。


ここで、エドの記憶が途切れていた・・・。




今のエドの体には、外傷は無く正常な状態だ。ただ、洋服の至るところが破けたりしているのは、エドの死が原因だと言うことだ。


「コイツは元PTメンバーに酷い事をされていたんだな・・・。さぞ辛かっただろうな。」







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