第28話 決め手は治安
転生58日目の昼間。
俺はアイスラン町から南に歩いて5日程の距離にあるモード町を目指していた。
ここ2ヶ月程でアイスラン町から近場の地域で拠点にする場所を探していた。そして、選んだのがモード町だ。
ここを拠点に選んだ理由は、いくつかある。
・食事
・環境
・治安、政治
【食事】に関しては、何と言っても魚料理が豊富なことだ。湖に隣接しており、新鮮な魚が毎日水揚げされているらしい。アイスラン町の料理も美味しかったが、魚が出されなかった。日本人の俺にとっては、たまに魚は食べたい。
【環境】に関しては、大きな湖に隣接している事が大きい。優雅な別荘がありそうな雰囲気ってだけで良いだろうと選んだ。水の都だ(俺が勝手に想像している)。
【治安、政治】に関しては、この辺りの領の中では最も良いらしい。領主はしっかりとしており、領民思いとも聞いている。それ以外の近場の都市は、アイスラン町と似たりよったりやちょっと良い程度だ。そのため、最終的にはこの治安・政治が決め手だ。
準備はバッチリで、アイスラン町を出発する前に、料理道具、調味料や日持ちがする食料、薬類、ポーションなどを買い込んである。食事に関しては、基本、現地調達した肉に味付けして食べれば良いと思っている。
1日目は特にモンスターも出ることがなく、ゆっくりとした日々を過ごしている。
ただ、移動中も訓練を行い、魔力が続く限りファイアボールやファイアアローを発動している。
しかも、40kgの重石を入れたリュックを背負って、10kgのリストバンドを両方の手足にしている。全身で90kgの負荷をかけている。
そのため、行き交う人と同じ速度での移動となる。本来の力を発揮すれば、一般人の半分ほどの時間で移動出来てしまう。
アイスラン町からモード町へはだいたい徒歩で5日ほどの道のりである。途中に2つの村がある。最低でも2回は野宿を行わなければいけない。
下調べの結果、1日目の野宿は、見渡しが良い平原で行うことが多いようだ。他の旅人達が野宿をしたであろう後が所々に残っている場所がある。他の野宿者も数名いた。
ただし、こういった場所は、周りの人がいるという安心感もあるが、窃盗、強姦などの事件が起こることも少なくない。
今回はそうゆう感じの人物はいなそうだ。3人組が2つ。7人組の商会が1つ。それに俺だ。流石にソロの旅人は珍しいかもしれない。
フェアリーを召喚して、見張りをして貰って眠ることにした。もちろん、何事も無く朝を迎える事ができた。
既に他の人は出発した後の様だった。俺も朝食の準備をして、軽く食事を取ってから、出発する。
2日目も特に変わったことはなく、旅は順調そのものだった。昼食に街道からそれて森の中でハイラビットを狩って食べた。塩コショウだけだったが意外と美味しかった。新鮮なのもあるだろうが、肉質は柔らかくある程度の歯ごたえもある。
暗くなる前には、予定通りに1つ目の村に着いた。
そして、そのまま冒険者ギルドに直行した。理由は、モンスターの換金だ。資金稼ぎにもなるので、この村の近くでハイラビット3匹とウルフ2匹を狩って大きな袋に詰めてきた。
冒険者ギルドに入る。
暗くなる前なので、既に冒険者ギルドに併設されている酒場では、チラホラと冒険者が酒を飲んでいる。
何人かは入ってきた俺を見ると、すぐに興味を無くす者、様子を見る者、嫌な目を向ける者に分かれる。
ツカツカと受付嬢のところへ向かう。
「こんばんは。こいつを引き取って欲しいんだが良いか?」
「こんばんは。では、ギルドカードをご提示下さい。」
俺は、
「銅プレートの方ですね。討伐した対象は何ですか?」
「ハイラビット3匹とウルフ2匹だ。そのまま持って来ているから全部引き取ってくれ。」
「分かりました。では、あちらのカウンターの上に置いて下さい。確認をして査定を行います。」
俺は大きな袋を受付嬢から指定された場所へ置いて、中身のモンスターを並べた。それを見た4人組の如何にもガラが悪そうな冒険者が俺の方に歩ってきた。
「よう兄ちゃん。儲かってそうじゃねーか。これはどうしたんだ?こんな数ソロで倒したって訳じゃ無さそうだよな。」
「へへ。仲間は宿でも取って、兄さんが換金でもしにきたのかい?」
「いや、俺はソロだよ。」
「ハハハ。こんな数ソロでヤれるかよ。どっかで拾って来たんじゃねーか?」
「・・・ああ、そうだった。ちょうど、村の入口付近に落ちてたから拾って来たんだった。捨ててったヤツには感謝だよ。」
「・・・兄ちゃん、ふざけてんのか?」
「いや、おっちゃんが言ったんじゃないか。俺はたまたま落ちてたから拾っただけ。ラッキーな男なのよ。」
ちょっと、4人の顔色が少し変わった気がする。
「・・・だったら、俺達にもそのラッキーの分前を分けてくれよ。一緒に座って良いからよ。なあ皆?」
「「「ああ良いぞ。」」」
4人の内1人が俺の肩に手を回して、軽く首を締めてくる感じになる。結構酒臭いな・・・。ほっとくべきか?どうするか?
そんなとき、助け舟のように受付嬢が戻ってきた。
「ちょっと止めなさい。その子に何かしたら、サブマスを呼びますよ!」
「っち、分かったよ。」
俺の肩に手を回している男がそのまま自分達の席へ帰る間際、「テメェ、ちゃんと帰りにこっちに来いよ!」と俺の耳元で呟いていった。
「じゃあなぁ〜兄ちゃん。」
「ごめんなさいね。あの4人組には気をつけて!ちょっと素行が悪いのよ。関わらない方が良いわ。それとこれが報酬です。銀貨1枚と銅貨52枚となります。」
ちゃんと計算も合っている。俺のことを心配して声も掛けてくれる。全うだな。
「忠告ありがとう。ところで、この辺の宿でオススメを教えて欲しいんだけど。」
「だったら、穴熊亭がオススメね。この村には3つの宿があって、一番高いけど確かな宿よ。あなたの稼ぎがあれば余裕よ。あの4人組は一番安い宿に泊まっているから、遭うことも無いわ。」
「そうか、ありがとう。これで飯でも食べてくれ。」
俺は、チップとして銅貨10枚を受付嬢に渡した。最初は「っえ!」って顔をして、返して来たが、俺は強引にチップを渡して、バイバイと手を振って立ち去った。
そのまま、冒険者ギルドを立ち去ろうとしたとき。
「ちょっと、兄ちゃん。そっちじゃねーよ。こっちだよ。」
俺の肩を掴んでギルドの中へ戻そうとする手があった。
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