第23話 初めて


マリアさんが俺の隣でワイングラスを手に持っている。俺もグラスを持ち、軽くグラスをぶつけて乾杯をする。


「「乾杯。」」


「いただくね。」


「どうぞ。」


「うん、美味しい。」


「ですよね。俺もこのワイン気に入りました。今後、ちょこちょこ飲みに来ますよ。」


冷めてしまっているが、ステーキを切り分け、その皿をマリアさんの方へテーブルの上を滑らせて差し出す。


「あと、これもよかったらどうぞ。ここのお店の料理は、冷めてても美味しいんですよ!お肉は固くならないで柔らかいままなんです。」


「そうなの。じゃあ、ちょっと頂いてみようかしら?」


「どうぞ。」


「まあ、本当だ。冷めてても柔らかくて美味しい!! ップ、ハハハ。何このやり取り。」


「ハハハ。マリアさんも乗ってくれたじゃないですか。」


勿論、マリアさんは店員さんなので、ここの料理の事は良く知っている。俺のボケにちょっと乗っかって来てくれた。ショートコントのおかげで、2人の間に笑いが溢れる。




その後、マリアさんは何度か席を立ったが、「ちょっと」と言いつつ最後まで俺に付き合ってくれた。結局、2人でワインボトル3本空けてしまった。


客は皆帰って、俺一人となった。



最後のお会計を済ませて、店の外でマリアさんを待っている。勿論、マリアさんとこの後の予定を取り付けている。


俺は手にワインボトル1本を持っている。これは、特別に持ち帰り用としてスゥリールで購入した物だ。2次会用のお酒だ。


「おまたせ。」


「いえいえ。」


「じゃあ行こうか。こっちよ。」


そうして、俺はマリアさんに手を引かれて、マリアさんの自宅へ移動するのであった。






転生36日目の朝。



昨晩何があったかは想像におまかせするが、マリアさんの自宅のベッドの上で、俺とマリアさんは生まれたままの姿で寝ている。


その後、朝食を頂いて、ダイニングで寛いでいる。



「エドくん、あなたは本当に15歳なの? 昨晩は全然そんな感じには見えなかったし・・・。」


「本当に15歳ですよ。昨日は、初めてでしたし。」


「っえ!!アレで初めてだったの!」


ちょっと、マリアさんの顔が赤みがかっている。色々と前世の知識を使って戦ったので、完全に勝利していた。


マリアさんは、今フリーらしい。1年程前まで冒険者と付き合っていたらしいが、無理なクエストで命を落としたそうだ。


それから、寂しいときについ1回きりの遊びはあるそうだが、付き合うまでには至ってないらしい。


今回は、俺が毎日、朝昼晩と顔を出していたのに、いきなりパッタリと5〜6日間も店に顔を出さなくなって、ずっと心配していたらしい。恋の駆け引きをしたつもりはないが、何か噛み合ったぽい。



「そういえは、エドくん。 最近、変な連中がエドくんらしい人を探してるって聞いたんだけど、何か心当たりない?」


「・・・・。」


【グリフォンの翼】ってことは無いだろうな。だったら、多分、盗賊のことだろう。あの時トドメを刺せなかった奴が、報復に俺を探している。まあ、その線の確率が高いな。


「何かあるのね?」


マリアさんの顔が心配そうに曇った。


「まあ、ちょっと心当たりがあります。大したことはないので、大丈夫だと思います。」


「なら良いけど。無茶だけはしないでね。身の丈にあった行動が一番よ。」


「わかりました。肝に銘じておきます。」






その後、20日間で5回ほどスゥリールに酒を飲みに行った。マリアさんは店の中で俺の酒に付き合ってくれたり、自宅に招いてくれてそこで一緒にお酒を楽しんだ。


マリアさんも軽い感じだ・・・・まだ、付き合っているって訳じゃない。



◇◆◇◆◇◆



転生56日目の朝。



「ただいま。」


「おかえりエド兄ちゃん。」


孤児院に帰るとチビたちが応対してくれた。が、メリーさんとトリートは、朝からお客さんが2人ほど来ており話をしているそうだ。


客間でなにやら話し込んでおり、中々終わりそうも無い。取り敢えず、チビたちに俺が帰って来たことを伝えてもらった。


そして、俺はいつもの様に訓練のため、東の森へと向かっていった。






その日は、14時頃には孤児院へ帰った。


「ただいま。」


「・・・エド。昨晩はどこで何をしていたの?」


早速、トリートが怖い顔をして出迎えてくれた。


「いや、ちょっと行きつけの店でちょっと酒を飲んできて。飲みすぎちゃって、そのまま店の人ん家に泊めてもらったんだよ。」


トリートの視線が痛いです。


「ふーん。そうですか・・・。ところで、首筋に赤い痣がチラホラあるけど、それ何?」


ばっと、反射的に両手で首筋を隠してしまった。そんなハズは無い。今朝顔を洗ったときにキスマークが無いことは確認していた。ってことは。


「・・・。」


「っえ!」


ガシャン。トリートが持っていたお皿を落として割ってしまった。


やっちまった。トリートは冗談で言ったつもりが、俺が反応しちゃったから感づかれた。


トリートは上の空で、放心状態だ。そのままお皿を片付けると怪我をしかねないので、俺がすぐに掃除をする。


「トリート大丈夫か?」


「・・・う、うん。」


明らかにトリートの表情に元気がない。このまま放置は良くないな。ちょっと話をするか。




トリートの部屋へ連れていき、ベッドへ腰を掛けさせる。俺は椅子に腰を掛けて、正面に据わっている。


「まあ、すまん。」


「ううん。まあ、あれから3年だもの、彼女がいても可怪しくないわよね・・・。」


「・・・。」


「彼女がいるなら、いるって言ってくれればよかったのに・・・。」


「いや、それは居ないよ。確かにそうゆう関係になった人は最近いるが。別に付き合ってるって訳じゃない。向こうは、ちょっと遊んだって感じだと思う。」


「・・・そっか。」


「本当にすまん。」


「・・・。」


「・・・。」


「前話したじゃない?この孤児院の経営が良くないのに、更に領主様が寄付金を減らすって話・・・。」


「ああ・・・。」


「その件で、今朝、領主様の使いの者がやってきたの。それで、そこで言われたの。5日以内に身を清めてから私に領主宅へやってこいって・・・。」


「・・・。」


「来なかったら、この孤児院への寄付金を打ち切るですって。そんな事って・・・逃げ出したいよ、エド・・・。でも、逃げ出したら、孤児院がどうなるか分からないし。もう、そうするしか手は無いと分かっているけど・・・。」


トリートの目からは涙が溢れだしていた。俺は、トリートの隣に座って、黙って泣いているトリートを抱きしめた。少し経つとトリートもだいぶ落ち着いてきたようだ。


「・・・心配するな、俺がどうにかしてやる。」


トリートは首を横に振る。


「そんなの無理だよ。孤児がどうにか出来ることじゃない。だから・・・・エドお願いがあるの・・・。」


「なんだ?」


「だ、だ、だ、大好きなエドに、私の初めてを貰ってほしい。昨日の事はショックだったけど、領主様に弄ばれるくらいなら・・・。」


こんな展開あり得るか?だが、エドのトリートへの思いは嫌というほど知っている。(両思いだ)腹を括るか。


「私じゃ、駄目かな?」


「いや、駄目じゃないよ。俺にはもったいないくらいだよ。」



この後はご想像にお任せしますが、トリートのベッドのシーツには、赤いシミが付いてしまっていた。



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