第92話 終わりの始まり

【これまでのあらすじ】

 濡れ衣を着せられチームBIOを追放されたレジスタンスエージェント バイオは、真実を探すため、グリと共に、Crystal Tower を登る。

 行方不明となった百八の魔星の頭領ドージェの捜索中、グリはCrystal Tower に隠されたレアアイテム”オニキスシールド”取得を提案、そこにふじが合流。

 ”オニキスシールド”を取得するためには、コントロールポータルを青化する必要があり、そのためにはコントロールポータルにセットされたオニキスシールドを破壊する”オニキスストライク”が必要。

 最上階で、バイオ、グリ、魔星のふじ、kurokirbyがオニキスストライクを取得し、オニキスシールドを破壊。そして遂に、コントロールポータルは青と化すのであった。



 コントロールポータルが緑から青に反転された瞬間、辺りに重厚なサイレンのようなアラーム音が鳴動。

 その不穏な響きに、身をすくめながらも、グリフハックをしながら言葉を発するバイオ。

「なんだ。このサイレンは?」


「コントロールポータルが青になったときに、鳴る設定のアラームだ。

 頭領である”天魁星”のドージェが仕込んだものだ。」


 kurokirbyの静かな言葉に頷きながら、グリフハックの結果を確認するバイオ。

 取得したアイテムが、インフィニティリンクアンプであることに舌打ちをしつつ、真後ろから覗き込むふじを振り返ると、顔を歪め小さく首を横に振るのが見えた。


 視線を左に転ずると、グリはハンドシグナルでOKを示し、首を縦に振った。

 目を見開くバイオ。

 後方からふじの「やったさー」という声を聴く。


「ふじ、今、”やった”、と言ったのか?何のことだ。」

 ふじの声が耳に入ったと思われるkurokirbyが詰問する。


「あきさみよー(なんということだ)。

 聞こえちまったさー。


 グリよ、本当に手に入ったんだな。

 だったらよ、もう言っちまっていいさー?」


 こちらを見つめるグリが、大きく頷き、kurokirbyの脇をすり抜け、通路を床方向に向かい後退するのを確認したふじが、

「kurokirbyよ。すまないさー。

 グリが前に言った、Crystal Tower以外の7つの塔が全て緑に変わったという話。

 あれは、嘘さー。」


 ふじの突然の言葉に、冷静なkurokirbyが目を見開く。

「なんだと!

 何を言っている!


 何のために、そんな嘘を。

 それに、あの時、お前が見せた、半分になった仮想通貨、あれはどういう事なんだ!?」


 薄笑いを浮かべたふじが、悪戯っぽく答える。

「仮想通貨の件は、一計を講じた結果さー。


 おいらと、やー(あなた)が共同で保持している一番でかいCFがな、ちょうど前のチェックポイント※1前に壊されたさー。

 やーは、攻撃通知※2を切っているのを知っていたんで、そのことを知らんと思ったさー。

 つまり、仮想通貨が半分になったのは保持CFが半分になったからさー。


 普段のやーなら気付いただろう単純なトリック。

 だが、この状況では、見破れなかったさー。」


「貴様。」


 kurokirbyの憎悪に燃える瞳を向けられても、平然としたふじが続ける。

「それと、もう一つの質問にも答えるさー。

 こんなことをした目的は、レアアイテム”オニキスシールド”を手に入れるためさー。


 オニキスシールドは、アーティファクト※3が入ったコントロールポータルが青でないと手に入らないさー。


 だからよ。なんとか、ここを青にすることをやーに、認めさせたかったさー。」


 ※挿絵

https://kakuyomu.jp/users/dobby_boy/news/16817330652890206168


 バイオがふじの言葉を引き継ぐ。

「あんたには、いや、百八の魔星には悪い事をしたと思っている。


 だが、俺たちは目的を遂げた。


 だから、1時間後反転※4して、元通りに」


「待て!」

 バイオが言い終わる前に、スキャナーを凝視したkurokirbyが絶叫する。


「なぜ、コントロールポータルにオニキスシールドがセットされている。


 それに、それに、なんだ、このリンクは、CFは、、、」


 急ぎスキャナーを確認するバイオ。

 コントロールポータルを起点とするリンクが複数張られ、辺りは巨大な青CFに沈んでいる。

 そして、MODを確認すると、kurokirbyの言う通り、オニキスシールドがセットされていた。


「こ、こいつは一体。。」

 混乱したバイオは、言葉を絞りだすのが精一杯だった。




 呆然とする一同の耳に、吹き荒れる疾風の中を縫って、地の底から響き渡るような不気味な声が届いてきたのはその時であった。




 ※1.チェックポイント:イングレスでは、エージェントが作成したCF(コントロールフィールド)の中のMU(マインドユニット。フィールド内の人口)の数を、レジスタンス(青)とエンライテンド(緑)の両陣営で競うが、計測されるMUは5時間ごとに設定されたチェックポイント時点で存在するCFのMUである。

 加えて、この世界では、チェックポイント時点のMUを元に、仮想通貨が自動配分されるシステムが採用されている。


 ※2.攻撃通知:イングレスでは、保持ポータルが攻撃を受けた際、通知が入る。

 ただし、保持ポータルが多いエージェントは、通知が多い事を嫌がり、通知を切ることがある。


 ※3.アーティファクト:史的価値のある人工物を指す言葉。イングレスにおいては、イベント時に発生しポータル間を移動させるゲームに使用される。


 ※4.1時間後反転:ウイルスを使って反転されたポータルは反転後1時間は再反転できない。

 そのため、一度緑から青にウイルスで反転させた場合、再度緑に反転するには、1時間後に反転する必要がある。

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