第72話 無敵のシールド

【これまでのあらすじ】

 白田と黒崎は、勤務地であるクリスタルタワーが突如隆起する事件に巻き込まれる。

 仮面を被った男による事件の説明会の後、仮面の男が拳銃を持った男に脅されるのを見た2人は、協力して仮面の男を助ける。

 仮面の男は、ドージェと名乗り、脅された経緯を説明する中で、隆起を仕組んだのは八騎士であり、その目的はイングレスにより世界の富を独占することにあると言うのであった。



「なぜ、8つの塔のポータルを破壊できない?

 おおよそ、この世に破壊できないポータルは存在しねえ。

 如何に、イージス※1で守られていても、如何に、多くのリンク※2がひかれていてもだ」


「8つの塔には、レアアイテム”オニキスシールド”と”アンチウィルス”がデプロイされているからです」


「MOD※3か?そんなアイテムは聞いたことがないが」


 ドージェは頷き、仮面の奥の目を曇らせ、答える。

「特定の場所、条件の時にしか入手できないため、存在を知る者はほとんどいないでしょう。


 ”オニキスシールド”は、通常のバースター、ウルトラストライクでは破壊できず、また減衰※4しないため、デプロイされると中立化できません。

 しかも、ステルス機能がありデプロイされたポータル起点のリンク、CFはインテルマップ※5上見えません。


 そして、”アンチウィルス”はその名の通り、ジャービスとエイダ※6を無効化します。


 ”オニキスシールド”と”アンチウィルス”を両方デプロイされたポータルは中立化、反転が不可能となります」


「ステルスだと。

 と言うことは、世界が覆われても誰もそのことに気付かない?」


「そうです。八騎士が人知れず世界を覆うことで、八騎士が上方のCF、その他の者が下方のCFを保持することとなり、

 実質八騎士が世界の富の半分を手に入れることになります」


「そんなこと、許すわけにはいきもさん。

 何とか、阻止せんと」


「偶然ですが、このクリスタルタワーは私が八騎士から奪還しました」


「どうやってだ?

 破壊は出来ないのではなかったのか?」


「彼らにとって、想定外の事態が発生し”オニキスシールド”はデプロイできたのですが、”アンチウィルス”のデプロイが間に合わなかった。

 そのタイミングで、私がジャービスで反転をしたのです」


 白田と黒崎に順番に視線を投げかけたドージェが、言葉を付け加える。

「そして、私を銃で脅した男が案内を求めたのは、クリスタルタワーのポータルでした」


「なんだと!

 ということは、こいつは、八騎士の手の者ということか。

 クリスタルタワーの再反転を目論んだのか」

 床に横たわる男を指さし、黒崎は問いかけた。


 ドージェは頷き、

「間違い無いでしょう。

 私が反転後、一時間が経過するのを待って※7行動を起こしたことから判断して、彼は八騎士の組織からの指示で動いたと思われます。


 そして、ここには、恐らく彼の他にも八騎士の手の者が幾人かおり、再反転を狙っているでしょう」


 白田が、大きな目をさらに広げドージェに語りかける。

「一つ思ったんじゃがあ、おはんがさっき言っておった”アンチウィルス”っちゅうMODをデプロイしちゃあ、どうじゃあ。

 そうすれば、八騎士が再反転をしとうても、出来んはずじゃあ」


「その通りです。

 正にそのことであなた方にお願いをしようと思っていたことがあります」


「言うちゅみい」


「”アンチウィルス”を取得するためにはある条件があります。

 それは、アノマリーメダルを持つエンライテンドエージェントが、現在のクリスタルタワーのポータルをハックすることです。

 残念ながら私は、アノマリーメダルを持っていないため、取得することができませんでした」


「なるほど、あんたが、さっき俺たちのアノマリーメダルを見て考え込んでいた理由が分かったよ。

 いいぜ。俺たちが、”アンチウィルス”をとってやる。

 これで、クリスタルタワーは永遠の緑ポータルとなり、八騎士の企みは水泡に帰したというわけだ」


 静かに頭(かぶり)をふるドージェ。

「いえ、一見に無敵に思える”オニキスシールド”ですが、たった一つ破壊が可能なアイテムがあるのです」


「そいは、なんじゃあ?」


 瞳を閉じたドージェが囁くように、言葉を発した。

「レアアイテム”オニキスストライク”」



 ※1.イージス:最強の強度(レゾネーターのダメージ軽減度)とはがれにくさ(シールド自体の破壊確率の低さ)を併せ持つシールドであるイージスシールドのこと。


 ※2.多くのリンク:ポータルにデプロイされたレゾネーターのダメージを軽減するためには、シールド設置以外に多くのリンクを張ることが条件となる。


 ※3.MOD:ポータルを強化するアイテム。防御力をあげる「シールド」、リンク距離を延ばす「リンクアンプ」等がある。


 ※4.減衰:ポータルにデプロイされたレゾネーターのXM(ヒットポイントのようなもの)は、攻撃を受けると減るが、一定時間が立つことでも減る。

 時間経過によりポータルのレゾネーターのXMが減る現象を減衰と呼ぶ。

 つまり、通常ポータルはキャプチャされたままメンテナンスしないと一定時間で中立化されるが、減衰しない効果があれば、攻撃を受けない限り中立化しない。


 ※5.インテルマップ:イングレスでは通常スキャナを使って、自分の周囲の限られた範囲しか確認出来ない。

 インテルマップというアプリを使う事で、世界中の地図とポータルを確認することが可能となる。


 ※6.ジャービスとエイダ:ポータルの色を反転するウイルスという武器の種類。

 レジスタンスのポータルをエンライテンドのポータルに反転するジャービスウイルスとエンライテンドのポータルをレジスタンスのポータルに反転するエイダリファクターのこと。


 ※7.一時間が経過するのを待って:ウイルスを使って反転されたポータルは反転後一時間は再反転できない。そのため、再反転をするには反転後一時間以上待つ必要がある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る