第97話 四肢
【これまでのあらすじ】
濡れ衣を着せられチームBIOを追放されたレジスタンスエージェント バイオは、真実を探すため、グリと共に、Crystal Tower を登る。
最上階で、バイオ、グリ、魔星のふじ、kurokirbyがオニキスストライクを取得し、オニキスシールドを破壊。そして、コントロールポータルは青と化す。
遂に、念願のオニキスシールドを取得し、目的を果たしたと思った瞬間、コントロールポータルにオニキスシールドがセットされ、巨大なCFが作成される。
グリは八騎士のNo2であり、八騎士の目的は八つの塔による世界を沈めるCFの作成であることが判明。
そして、目的を果たすために八騎士の一人のクローンとして産まれたのがバイオであるという事実が発覚。
kurokirbyは八騎士の目論見を阻止し、交渉する材料としてグリを拘束しようとするのであった。
グリの急激な気配の変化に目を奪われたバイオであったが、対峙するkurokirbyにも静かではあるが確かな変化を感じていた。
鉤状に曲げた右3本指を顎の位置に掲げ、前後に軽く足を開いて構えるkurokirbyと、無造作に立っているだけに見えるグリの間を、2,000mの虚空から吹きすさぶ風が舞っている。
不規則に変わる風の流れに身を任せているだけに見える両者は、微動だにしない。
このまま、何も起こらないのではないかと思ったバイオが、息を吐いた瞬間、kurokirbyの体が風と化した。
正確に自分の目に向っている、脱力された右の五本指を、グリはスウェーバックでかわす。
が、
「Nuhhh.のびる..」
予想より伸びてくる右拳戟を、自身の右掌底で下から左斜め上に軌道を逸らす。
自らの右手が死角となり、下方向の視界が途切れた瞬間、真下から股間への風圧を感じたグリはバックステップを切りながら、視線を下方向に向けると、颶風と殺気を纏った左足が真っ直ぐに跳ね上がってくるのを見た。
右拳同様、予測より足首一つ分伸びる上段前蹴りを、首を反らし、紙一重で天空に逃がした。
直後、殺気の塊と化した踵が、同じ速度で下方向に襲い掛かる。
「Gununu--..」
グリは、右手を上方にかざし、kurokirbyの左踵を右方向に逸らしながら、その勢いで大きく左にステップを切り距離を取った。
汚れをとるように右肩を左手で払いながら、
「独特の伸びるようなパンチとキック。
日本の古流体術である”四肢(しし)”だな」
グリの言葉に、バイオが怪訝に鸚鵡返す。
「しし?」
kurokirbyが脂汗を流しながら答える。
「柔術、剣術、忍術の源流と呼ばれる技術体系だ。」
「イエス!
そのゴクイは、ヒューマンが二足歩行を導入する過程で、退化した肩甲骨と腸骨の機能をストレンクスン(強化)することにより、四足歩行時代の肉体的ポテンシャルを取り戻すことにある。」
グリの言葉に、表情を曇らせるkurokirby。
「やはり、知っているのか。いや、使えるのか、俺よりも。
さっきの貴様の回避技、あれは四肢※1を使えなければ出来ないものだ。」
「Kukukuku.
ユーもアマチュアにしては使える方だ。
バット、ミーとはステージが違う。
ユーの秘策も尽きたか。Nnn--.
これで、ジエンドだ!」
言葉と同時に、kurokirbyに向け床を蹴ったグリ。
だが、進む力を打ち消す剛力で後方に引き戻された。
「What?」
「おいらがいることを忘れているさー。
そして、安全帯をしていることもなー」
グリの安全帯から繋がるロープを両手で掴んだふじが、不敵な笑みを浮かべた。
※1.四肢:人類が四足歩行から二足歩行に進化することにより、四本の足が、二本の腕と二本の足へと機能が変化した。
前足が腕へと変わる過程で、肩甲骨の柔軟性が失われる。
また、地面に平行であった上半身が垂直に変わることで、後ろ足を制御する腸骨の柔軟性も失われる。
肩甲骨、腸骨の柔軟性が無くなることにより、四足歩行時代より大幅に運動能力が減少した。
四肢は、訓練により肩甲骨、腸骨の柔軟性を高め、四足歩行時代の運動能力を獲得するための技術体系である。
日本の侍が、当時世界最強の戦士と呼ばれた理由は、四肢を会得していたためと言われる。
※挿絵
https://kakuyomu.jp/users/dobby_boy/news/16817330657939032330
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