第26話 霞がかかった部屋

 霞がかかった部屋の中にいる。

 前に来たことがある部屋だ。

 いつだったろう。


 そうだ。初めて、そして最後ににゃんたろうと話をした時に来た部屋だ。

 また、にゃんたろうと話ができたらいいのに。


 そのとき、突然すぐ近くで私を呼ぶ声が聞こえた。

「たまごろう」


「にゃんたろう?」

 視界に、あの時の姿でにゃんたろうが現れた。


「にゃんたろう。今までどこにいたの?心配したんだよ」


「たまごろうは多分、僕がどこにいるか知っていると思う」


「そうだね。多分、にゃんたろうは私の中にいて、私を見守ってくれていたんだよね」


「そうさ。僕はたまごろうの中にいるうちに、色々なことを思い出した。なんで、たまごろうの中に入れたのかも」


「なんでなの」


「うん。あの日、僕はお庭で遊んでいたんだ。そうしたら綺麗なねずみがいたんだよ。僕は、そのねずみと遊びたいと思った」


「にゃんたろうはねずみと遊ぶの好きだもんね」


「うん。僕が近づくと大抵ねずみは逃げるのに、そのねずみは僕のほうに近づいてきて、突然話しかけてきたんだ」


「なんて?」


「うん。ねずみは自分のことをアダムって、言ってた」


「アダム?最初の人間の名前だ。あ、それとこの前テレビでもその名前を聞いた気がする」


「うん。アダムと話しているうちに僕は気が遠くなって気が付いたら、たまごろうの上でふみふみしていたんだよ」


「ふーん」


「で、次に気が付いたら、あのときたまごろうの中であるここに来ていたってわけ」


「そうだったんだね」


「たまごろう。そろそろ起きたらどうかな。

 頭に弾を撃たれたけど、僕とアダムで頭の骨に沿ってそらしておいた。

 それと傷も治しておいた。撃たれた時の傷も、仮面をつける理由になった昔の傷も。

 だから、もう起きても大丈夫だよ」


「ありがとう。そうする」


 たまごろうは霞がかかった部屋で横になったまま目を閉じた。

 どれだけ時間が経っただろう。


 少しずつ瞼を開けていくと、左右にオレンジ色の灯りが埋めこまれた天井が見えた。

 あの時、足音のしない男と戦っていた通路であった。


 顔に手を触れると、仮面はいつのまにかなくなっていた。


 そして、にゃんたろうの言う通り、顔の傷はすべて消えていた。

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