第17話 Crystal Tower 二階 死の試練
二階の入り口を通りすぎると、普段のグリに戻っていた。だが、バイオの耳には先程のグリの高笑いがへばりついて離れなかった。
「あのときのグリさんは、何かにとりつかれていたようだった。どうなっているんだ。。」
バイオの思考は、グリの言葉に中断した。
「HEY、バイオ、見えたぜ! 二階ステージの入り口だ!」
目の前に取手の無い扉が現れた。
どうやって開けるのか? 扉の右にディスプレイがあり、一文字「川」とある。グリは、迷う事なくディスプレイに「海」と入力した。
音も無く扉が、開いた。
「グリさん、あんた、ここに来たことがあるのか?」
「フューイヤーズアゴーにな。その話は後だ! 入るぞ」
一階とほぼ同じ広さのだだっ広い部屋であった。一階同様中心にポータルと思われるオブジェがある。バイオは、キャプキャするために、スキャナーを開いた。が。
「圏外? どうなっている!? さっきまで、完全に入っていたのに」
「二階ステージ以降は、電波がシャットアウトされているんだよ。条件をクリアしないかぎり、ネット接続はできない! つまりイングレスもできないのさ」
「条件だと!?」
「ルック! あれだ!」
グリの指差した方角には、大型の液晶ディスプレイがあった。そして、それには何かが接続されている。
「こ、これは。。」
近づいたバイオは、そこにあるものの意外さと懐かしさに、思わず呻いた。
「エフコム※1じゃないか。ソフトもある。スーパーキノコ※2とリュウクエ2※3と魔界の一族※4! なんだこれは! やりてー!」
「は、すまない。グリさん! こんなことを、やっている場合じゃないな!」
「ノー! バイオ! 思う存分やれ! いや、むしろやらなければ、上への扉は開かない!」
グリの言葉にバイオは、混乱した。
「どういうことだ? グリさん! この古いゲームが、上へ行くのに何の関係があるんだ!」
「ビフォーに言ったこのフロアーの電波を復活させる条件。それは、あの三本のゲームを二十四時間以内にクリアすることなのさ!」
「イングレス関係ねー!」
「そうさ、二階ステージ以降をクリアするには、イングレスだけじゃダメだ! 俺たちの謂わば人間力が試されるのさ!」
「ヌウ!」バイオは、呻いた。
あの三本を二十四時間以内にだと!? 現役時代でも、可能かどうか分からねえ。とりわけリュウクエ2を。
※挿絵
https://kakuyomu.jp/users/dobby_boy/news/16817330647621136406
「は!」
バイオの頭に閃光が閃いた。
「グリさん! リュウクエ2は、帰還の呪文※5をネットで調べたら速攻クリアだ!」
「ビフォーも言ったはずだ。ここは、電波が届かないと」
「は!」
バイオの心に絶望のプレリュードが鳴り響いた。
※1.エフコム:1980年代に発売された家庭用ゲーム機。家に居ながらゲームセンターと同じゲームが出来るとの触れ込みで、爆発的売れ行きを記録した。
ハードの制限のため、現代から見るとグラフィックは劣っているように見えるが、限られた性能の中にクリエーターの知恵と技術が詰め込まれたソフトは現代でも根強い人気を誇る。
※2.スーパーキノコ:エフコムの代表的なソフト。横スクロール複数面クリア型。主人公のひげ男を操作して、囚われの姫を救い出すアクションゲーム。
※3.リュウクエ2:エフコムの代表的なソフト。エフコム初のオリジナルタイトルのロールプレイングゲームであるリュウクエの続編。
あまりの人気に予約が出来ず、発売日当日、店の前に徹夜の行列ができたことで社会現象にもなった。クリアまでの平均プレイ時間は四十八時間と言われている。ただしこの時間は、一日数時間プレイを複数日実施した累計時間であり、中断無しで実施した場合の平均プレイ時間の統計は無い。
※4.魔界の一族:エフコムの代表的なソフト。横スクロール複数面クリア型。主人公の騎士を操作して、囚われの姫を救い出すアクションゲーム。
※5.帰還の呪文:リュウクエ、リュウクエ2では、バッテリーバックアップによるセーブ機能が実装されていなかったため、中断したゲームを再開するためにパスワードを入力する方式を採用。そのパスワードを帰還の呪文と呼ぶ。
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