第59話 四天王 地勇星 ハートオブクイーン
【これまでのあらすじ】
真実を探すため、Crystal Tower を登るバイオとグリ。
地巧星の不二(ふじ)と出会い、バイオの目的であるハートオブクイーンは、百八の魔星の実行部隊の頂点である四天王の一人であり、会えば魔星加盟の査定を受ける事になることを知る。
長い旅路の果て、遂に2人は、ハートオブクイーンの待つフロアに向かうのであった。
エレベーターが静かに止まり、扉が開いた。出ると真っ直ぐの廊下が10メートル程続き、突き当りが行き止まりとなっている。
行き止まりを左に曲がるふじの後ろについていくと、いくつかのブロンズ像が並ぶ、広い正方形の部屋に出た。
50メートル先に配置されたロダン作「考える人」の前に、黒い革ツナギのライダースーツを纏った短い金髪の後ろ姿が見える。
金髪の人物は、こちらに気付かないのか、手元のスキャナーの操作に集中しているようだ。
呆れ顔のふじが、首を左右に振りながら、黒い後ろ姿に声をかける。
「またさー。
やー(あなた)は、暇があるといつもグリフ※1をしているさー」
金髪の人物は、ゆっくりとこちらに振り返りながら、静かなハスキーボイスで答えた。
「イングレスというのは、突き詰めれば、効率的な補給と、必要アイテムを整理することが勝敗を左右するゲーム。
常にそこに注力するのは当然の事。
あんたが、無頓着すぎるんだよ、ふじ」
バイオは、振り返ったその細長で小さな顔を凝視する。
短く、野性的なカットの金髪。
アーモンド型の鋭い光を放つ挑発的な両眼。
鼻梁の通った鼻に、やや厚い唇。
それは、トータルで見て美しいと言える顔立ちであった。
そして、視線を下に移すと、ピッタリと張り付く革のスーツが、その細身の体のラインを際立たせる。
特に目を引く胸元の二つの膨らみは、黒い光沢のある革を強い力で外に向かって真っ直ぐ押し出し、腰回りの細さと比べアンバランスな大きさであった。
その切れるような美貌を持つ女性を見つめながら、バイオは平たい声でふじに問いかける。
「あいつは誰だ?ふじ」
戸惑いの表情を浮かべ、ふじが応える。
「え、、誰って、バイオ、やー(あなた)が会いたがっていたクイーンさー」
「違う!
やつは、クイーンでは無い!
確かに、細身で短い金髪、鋭い眼光、雰囲気は似ている。
だが、それだけだ!
何より、何より、、クイーンは男だ!
あいつは、女じゃあないか!」
バイオの叫びに、金髪の女が応える。
「それは、こちらのセリフ。
バイオとか言ったな。
あんたは、誰なの?
うちに、あんたのようなメンバーはいない。チーム立ち上げ当時からいたこともない。
もっこすでの、ふじとの会話も聞かせてもらったが、あんたが言っていたような事件など存在しない。
チームBIOのメンバーを騙り、私に会いに来た目的は何?」
金髪の女の言葉に、グリが反応する。
「ウエイト!
チームBIOのサブリーダーであるハートオブクイーンのネームをディシーブ(騙る)しているのはユーじゃあないのか。
ここにいるバイオは、元チームBIOのエースエージェント、元のネームはスペードオブエースだ。
そのネームは、近隣県にも鳴り響いていた。
ヒーが、ディシーブ(騙る)するとは考えられん」
金髪の女はグリにも噛みつく。
「スペードオブエースは確かにうちのメンバーでエース。
だが、バイオ、お前とは別人だ!
なるほど、うちのチームメンバーの名前だけは把握して、成りすましているのか」
激論の中、一人冷静なふじが仲裁に入る。
「まあ、待つさー。
やったー(あなたたち)は、おいらが見る限り、全員嘘を言う人間には見えないさー。
何か、ボタンのかけ違いがあるさー。
1つずつかけ違いを直していくさー。
クイーン、バイオが言っていた事件は無かったと言っていたが、なら、チームBIOの解散の原因は何さー」
※1.グリフ:グリフハックの略。イングレスにおいて、アイテムを取得する方法はポータルへのハックである。
グリフハックは、ハックの際、特殊な手順を踏むことでポータルより最大5つのグリフ(絵文字、象形文字を意味する英語 glyph)が高速で表示される。
表示されたグリフを正確になぞることにより、取得するアイテムを多く手に入れる事が可能となる。
多くのアイテムを取得する必要がある補給の際には、グリフハックは不可欠な行為となる。
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