第106話 チェックポイントへのカウントダウン

【これまでのあらすじ】

 濡れ衣を着せられチームBIOを追放されたレジスタンスエージェント バイオは、真実を探すため、グリと共に、Crystal Tower を登る。

 最上階で、八騎士のNo2であるグリの画策により、コントロールポータルにオニキスシールドがセットされ、遂に世界は八騎士に沈められた。

 グリの奸計に窮地に陥る魔星勢に合流するたまごろうと和田美咲。

 グリに操られたバイオとの戦いの最中、死んだと思われていたvahohoの加勢により美咲がコントロールポータルを中立化するのであった。




 空白状態から徐々に覚醒しつつある意識の中で、自分が仰向け状態で横たわっていることにバイオは気付いた。

 起き上がろうとするが、胴体部分が固定され動かない。

 胴体部分に目をやると、下から回された二本の腕がへその位置で、クラッチされていた。

 クラッチしている右手の薬指と小指が不自然な方向に曲がり、外からはみ出している。


 拘束を外そうと、クラッチを掴んだ瞬間、身体をローリングされ俯きの体勢を強いられた。

 右手を地面につき身体を反転、再度仰向けになると、上から自分を見下ろしている男の顔が見えた。


「右手どうしたんだ?ふじ」


「正気に戻ったさー?バイオ。

 薬指と小指はしろさんに折られたさー。

 もっとも、折られる瞬間、おいらのほうも彼の右腕の肉を引き千切ってやったがな」


「そんな手で、上空から落下する俺を受け止めてくれたのか。。

 まあ、俺を上空に投げ捨てたのもあんただがな」


「いつから、意識が戻ったさー?

 上空に投げ飛ばしたときからか?」


「ずっと、、ずっと、意識はあったんだ。

 ただ、身体だけが、自分の意志通りに動かないんだ。。


 やつの、奴の、言う通りだ。

 俺は、奴らの人形だ。


 奴らに何度も記憶を上書かれ、本当の名前さえ思い出せねえ。

 自分の意志など関係なく、とことん利用され続ける。


 これからも。。」

 両手で顔を覆い、ひらたい声で言葉を紡ぎだす。


 バイオの手首を掴み、顔から引き剥がすふじ。

「おいらを見るさー。

 やー(おまえ)の身体が乗っ取られたら、おいらが元に戻す。今みたいにな。


 それに、上書かれたのなら、その下に本当の記憶が、本当のやー(お前)があるはずさー。


 なにより、グリのやつが、今後やーの前に現れることが出来ないようここで終わらせるさー」


「ふじ。。」


「まくとぅそーけーなんくるないさー」

 ふじの笑みが、バイオの心にしみ込んだ。




 5mの距離で、グリと対峙するたまごろうが静かに言葉を発する。

「チェックポイントまで後3分で、コントロールポータルを中立化した。

 ここまでのようね」


「まだだ!

 まだ終わらん!


 バイオを再び操り、ふじを足止めする。

 そして、しろがkurokirbyを始末し、新たなる侵入者をとめる。


 あとは。。」


 叫びながら、たまごろうに2枚のコインを連続で発射するグリ。


 すんでのところで回避するたまごろうの姿に笑みを浮かべなら、言葉を続ける。

「ユーだ!ユーさえ片づければ、もう一度コントロールポータルをキャプチャし、ワールドを沈めるCFを作る。

 ミー自身の手でな!


 そして、、」


 一気に間合いを詰めたグリが、手刀、中段上段蹴りの連続攻撃をたまごろうに浴びせかける。

 致命傷こそ避けるものの、躱しきれず、どうにか距離をとるも、ダメージからひざまずくたまごろう。


「手持ちのコインが尽きたようだな。

 コインの尽きたユーを片づけるのは、赤子の手をひねるよりイージーだ!」


 グリの危険な追撃を紙一重で回避するも、致命の一撃を被弾するのは時間の問題に思えた。


「たまごろう!

 八時の方向にロープ!」


 唐突な指示に従ったたまごろうが、左手を伸ばしロープを掴んだ。

 指示の主である和田美咲がコントロールポータルに巻きつけていた安全帯のロープを。


 掴んだロープを、グリに向って振るい牽制し、距離をとると、ロープを鞭として振るい空気を破裂させる。


「ウイップ!?

 トゥーファスト!

 見えん!」

 音速を超えたロープの先端を顎に被弾したグリは、回転しながら後方に吹き飛ばされた。


「やったのか?」


 美咲の問いかけに、応えるたまごろう。

「油断は出来ないけど、顎の骨を砕いた手応えはあった」




 三度目のトライでしろの右頬骨に廻した右手と、左手をクラッチすることに成功したkurokirbyは、一気にその巨大な頭部を胸元に引き寄せ捩じり上げる。

 てこの原理で、しろの首が不自然な角度で左方向に捩じ上げられた。

 このまま捻り続ければ首が折れる危険な技が極まっている。


「ぐぅぅ、遂に、、勝負がついたのう、黒崎さあ、、」


 異様な角度に曲げられた顔で、苦し気に呻くしろ。


「そうだな」


「ほいじゃあ、おいたちの掟に従って決着をつけんさい」


「ああ、わかった」


 無意識の涙を流し、最後の一捻りを加える寸前に、いつの間にか2人の至近に接近した影に声をかけられた。


「そこまでだ。

 決着をつける必要はねえ。


 白田が、裏切った原因は俺にある。


 お前らが殺しあう理由は無いんだ」


 vahohoの普段より一段低いバリトンボイスに、2人の動きが止まった。


「どういうことだ」


「後で教えてやる。

 今は、時間が惜しい。


 俺を信じろとは、言わん。

 ただ、白田との絆を信じろ。


 そして、白田。

 娘は保護した」


 眼を見開き、凝視するしろの視線を浴びるvahohoが、大声で叫ぶ。

「全員、聞けい!

 今すぐ、エアロックに退避するんだ。


 コントロールポータルが中立化した今の状態で、チェックポイント※1を迎えるとCrystal Towerは数分で隆起前の高さまで沈下する。

 ここにいたら、その衝撃で宙に跳ね飛ばされ、2,000mの奈落に真っ逆さまだ!


 急げ!

 チェックポイントまで後2分だ!」


 叫びながら、通路の方向に速足で進むvahohoに、和田美咲が声をかける。

「どこ行くんだよ、おっさん」


「このまま放っておいて、死なせるのも寝覚めが悪いんでな。連れていく」

 言いながら、倒れたグリの身体に近づいた瞬間、vahohoの巨体が通路と反対方向に弾き飛ぶ。


 頭を振りながら、上体を起こしたvahohoが、

「お前、動けるのか!?」


 顎を砕かれ、口から血を迸らせながら、不気味な笑みを浮かべたグリが、通路に向かって跳んだ。


 ※挿絵

https://kakuyomu.jp/users/dobby_boy/news/16818023213437630209



 ※1.チェックポイント:イングレスでは、エージェントが作成したCF(コントロールフィールド)の中のMU(マインドユニット。フィールド内の人口)の数を、レジスタンス(青)とエンライテンド(緑)の両陣営で競うが、計測されるMUは5時間ごとに設定されたチェックポイント時点で存在するCFのMUである。

 加えて、この世界では、チェックポイント時点のMUを元に、仮想通貨が自動配分されるシステムが採用されている。


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