第105話 再会(であい)
【これまでのあらすじ】
濡れ衣を着せられチームBIOを追放されたレジスタンスエージェント バイオは、真実を探すため、グリと共に、Crystal Tower を登る。
最上階で、八騎士のNo2であるグリの画策により、コントロールポータルにオニキスシールドがセットされ、遂に世界は八騎士に沈められた。
グリの奸計に窮地に陥る魔星勢の前にたまごろうが現れる。
そして、たまごろうと共闘する和田美咲がコントロールポータルを中立化すべく廃人重ね撃ちを乱射する中、グリに操られたバイオがリチャージでポータルを防御するのであった。
両手のスキャナのみを凝視し、操作する美咲の耳に遠方より聞き覚えのあるような低音の男の声が響いた。
「美咲、左方向に90度移動して、こいつを受け取れ!
お前の忘れ物だ!」
無意識に声の指示に従い、コントロールポータルを左回りに移動すると、視界の右上方から回転しながら飛来するものが見える。
そして、飛来物の右奥に位置する床に立つ人物が奇妙な動きをしているのが眼に入った。
何故そうしたのか分からない。
だが、美咲は、対岸に立つ人物の動きに倣い、右のスキャナを宙に放り投げ、左のスキャナを右手にトスし、宙から落ちてきたスキャナを左手でキャッチする。
この一連の動作を繰り返しながら、廃人重ね撃ちを続けた。
3度目に、右のスキャナを宙に放り投げたタイミングで、飛来物がピンポイントで右手に吸い込まれる。
右手で受け取った飛来物、スキャナで廃人重ね撃ちを撃ち、宙に投げ、左のスキャナを右手にトスし、宙から落ちてきたスキャナを左手でキャッチ。
3台となったスキャナを同時に操作し、廃人重ね撃ちを撃ち始める美咲。
※挿絵
https://kakuyomu.jp/users/dobby_boy/news/16817330669462595804
「レゾのダメージが加速度的に増加している!
焼けるぞ!」
kurokirbyの興奮した叫びが、場の空気を一変させる。
その中にあって、グリの動きを牽制するたまごろうが、後方のバイオが奥の通路に移動していることに気付いた。
「何を?
どこへ行くのか」
コインをバイオの方向に投擲。
が、グリの放ったコインに迎撃された。
「バイオの邪魔はさせん!」
通路を進むバイオの意図を読み取ったたまごろうが叫ぶ。
「40m範囲内でわんこ※1する気か!?
オニキスシールド※2がある状態で、わんこされたら焼き切る事は不可能」
「Ha! そうだ、バイオ!
決着をつけろ!」
通路を疾風の如く駆け抜けるバイオに矢継ぎ早に、投擲するもすべてグリに撃ち落され、唇を噛むたまごろう。
バイオの身体が、わんこ圏内である40m範囲内に入る寸前、強い後方からの力につんのめった。
視界の隅に、バイオの急停止を捉えたグリが叫ぶ。
「What!?」
バイオの安全帯に繋がるロープを掴んだふじが、全身の力で引き込んだ瞬間、バイオの身体が宙を舞った。
「ふじはしろが抑えているはず。
Why!?」
「白田の相手は、俺が交代した。
お前に撃たれた足では、歩くことはままならねえが、寝技の攻防には不自由しないんでな」
しろと縺れ合いながら、kurokirbyが切れ切れの声で応える。
半眼で3台のスキャナを操る美咲が、すべてのレゾを破壊しコントロールポータルを中立化。
結果としてオニキスシールドが消滅した。
白化※3後も、撃ち続ける美咲の手が止まったのは、全てのバースターが尽きた後であった。
両手の3台のスキャナの内の1台を見つめる美咲。
「なんでこれが、ここに。。」
それは、vahohoが撃たれたあの時以降、紛失していたスキャナであった。
「あの部屋か、エレベーターで落としたはずだ。
これを投げたのは誰なんだよ。。
確かめないと」
美咲は、通路の奥に佇むスキャナを投げた人物に向って歩き始めた。
一歩一歩進むごとに、霞に覆われ朧だった輪郭がはっきりしてくる。
男だ。大柄な男だ。
服装は、え。。
男の2m手前に達した美咲は、自分の目を疑った。
私は、夢でも見ているのか。
あいつが、ここにいるはずがない。
一瞬の考慮の末、動揺を払拭した美咲が、目の前の男に冷静に問いかける。
「お前は誰だ?
vahohoに化けて私を油断させようとしても無駄だ」
目の前の男は、表情を緩めバリトンボイスで応えた。
「そうだ、それでいい。
どんな信じられない状況であっても、いかなる可能性も排除せず考慮する。
例えそれが、自分にとって受け入れられない可能性であってもだ。
いいエージェントになったな、美咲」
その声、言葉を聞いた瞬間、美咲の中の何かが溢れ、視界が急激にかすむ。
続く男の言葉が始まったとき、顔を上げていることができず俯いた。
「そして、さっきの3台での廃人重ね撃ち。
見事だった。
あんな芸当、大仏にもできやしねえ。
お前は、あいつを、いや、俺たちを超えた。
お前こそ、この時代で最強のPurifier(破壊者)だ」
俯いた美咲は肩を震わせ震える声で、男vahohoに問いかける。
「あんなに撃たれて、なんで普通にしてられるんだよ。
一体、どうなってんだよ」
vahohoは、苦笑いを浮かべ応える。
「アダムには、細胞の自己修復機能があるらしい。
教授からその話は聞いてたんだが、本当だとは思っていなくてな。
撃たれた時も、助かるとは思わなかったが、暫くすると意識が戻って傷もある程度塞がっていたんだ。
度を過ぎた細胞の自己修復に教授と女博士は、軍事使用されることを恐れ、アダムを破棄しようとしたらしい」
俯いたまま身体を震わせる美咲は、右拳をvahohoの脇腹に強い力で打ち込み、呟いた。
「ばかやろう」
顔をしかめたvahohoは、美咲の髪の毛に右手をつっこみ、頭を下げた。
「すまなかったな」
美咲はしゃがみ込み、しゃくりあげ、嗚咽を漏らした。
※1.わんこ::攻撃を受けているポータルで、レゾネーターが破壊されたら、即レゾネーターをデプロイし、シールドが破壊されたら、即シールドをデプロイし続けることで、ポータルの破壊を防ぐ防御方法。
わんこは、ポータルの40m圏内でないと出来ない。
※2.オニキスシールド:オニキスシールド:ポータルを強化するMODのシールドの一種。レアアイテムで以下特徴を持つ。
(1)通常のバースター、ウルトラストライクでは破壊できない。破壊できるのはレアアイテムであるオニキスストライクのみ。
(2)セットしたポータルのレゾネーターの減衰を自動修復する機能がある。
(3)ステルス機能がありセットされたポータル起点のリンク、CFはインテルマップ上見えなくなる。
※3.白化:ポータルのレゾネーターがすべて破壊された状態。中立化と同義。ポータルの色が白くなるためその名で呼ばれる。
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