第53話 解散前の作戦

【これまでのあらすじ】

 真実を探すため、Crystal Tower を登るバイオとグリ。

 Crystal Towerを守護する百八の魔星の二人、天狼星のkurokirby、天敬星のしろとの2対2人狼チーム対決で辛くも勝利を得、上階行きエレベーターに乗る。

 上階で降りた2人をもっこすで振る舞う男。彼こそが、新たなる百八の魔星、地巧星の不二(ふじ)であった。


【主な登場人物】

 ・バイオ:本編の主人公。もっこす中華そばカタメンハンバラとライスの組み合わせをこよなく愛する。

 ・グリ:バイオのサポートをする謎のエージェント。ラーメンよりつけ麺派。

 ・不二(ふじ):空腹の2人にもっこすを振舞うが、その正体は、百八の魔星の一人で、地巧星の宿星を持つ。



 長身の男、不二(ふじ)は2人を見つめ、穏やかに尋ねた。

「聞かせてくれさー。

 バイオ、グリ、やったー(あなたたち)のことを」


「ホワイ、ミーたちの名を?」


「やったー(あなたたち)と白黒コンビの戦いはカメラ越しに見させてもらったさー。

 見事なものだったさー」


 バイオが、驚きの声をあげる。

「なんだと。

 あの戦いは中継されていたのか?」


「Crystal Towerの中にカメラの死角はほぼ無いさー。

 すべてのものが撮られていると思っていいさー」


 不二(ふじ)の答えに納得のバイオ。

「なるほどな。


 それで、地巧星のふじと言ったな。

 上階に行くためには、お前を倒さねばならんのだろう。

 勝負の方法はなんだ?」


「勝負か。。

 さっきも言ったが、その前に、話を聞きたいさー。

 やったー(あなたたち)が、ここに来た理由を知りたいさー。

 対立を解消する方法として、戦いの必要性は否定しないが、その前の話し合いをはしょるのは、おいらは嫌いさー」

 あくまで、冷静に不二(ふじ)は言う。


「Hou。

 ミスターフジ。ユーは今まで出会った魔星とはディファレントなようだな。

 ユーの言う通り、ウォーの前にカンファレンスがニードというのは、ミーも同じ考えだ。

 ミー達がヒアに来たリーズンは、あるエージェントに会うためだ」


 グリの答えに不二(ふじ)が尋ねた。

「誰さー」


 バイオが引き取り答える。

「チームBIOのサブリーダーだったハートオブクイーンだ。

 クイーンがこのCrystal Towerに向かったという話を聞いて、俺たちは来たんだ」


「チームBIOか。知っているさー。

 暫く前に解散したな。

 そして、ハートオブクイーンも知っているさー。

 確かに、やー(あなた)の言う通り、ここにいるさー」


 不二(ふじ)の言葉に、驚いたバイオは、

「どこだ!どこにいるんだ!!

 俺は、会わねばならねえ」


「まあ、待つさー。

 ここまで辿り着くのは、なまなかな事では無かったはずさー。

 そこまでして、ハートオブクイーンに会わねばならない理由は何さー」

 あくまで、不二(ふじ)の口調は静かであった。


「かつて、俺もチームBIOのエージェントだった」


「へえ、やー(あなた)もメンバーだったのさー。

 やーの名前がバイオである理由もそれさー」


「ああ。

 先月のことだ。

 チームでCF作戦※1が計画されたんだ」

 当時のことを思い浮かべながら、バイオは語る。


「CF作戦か。

 どこを沈める※2作戦だったのさー」


「あれは、確か。。」


「サートゥンリー、アワジアイランドと言っていたな」


「そうだ、淡路島だ。

 坊勢島、南港、沼島を使って淡路島を沈める計画だった。

 だが、南港から坊勢島にリンクを引く直前、明石から淡路島北端の岩屋に邪魔リンク※3が飛んだんだ。

 カット班が現場に飛んで、邪魔リンクを消したが、さらに別の邪魔リンクが飛び、それを処理したら、さらに次と、まるでモグラ叩きだ。

 計画が事前に分かっていなければ、あんな動きはできねえ。

 結局チェックポイントまでに邪魔リンクが切れず、計画は失敗に終わった」


 ※挿絵

https://kakuyomu.jp/users/dobby_boy/news/16817330648677766742


「計画が漏れていたさー」


「ああ。

 計画後のデブリーフィング※4でも、のっけから計画漏洩の話になり、漏洩原因の洗い出しが始まった。

 そんななか、全メンバーのスキャナーに匿名のメッセージが届いたんだ。

 あるスクショ付きのな」


「どんな、スクショさー」


「そ、それは。。」


 言い淀むバイオに代わり、グリが続ける。

「チームBIOのエネミーチーム宛に送られたCF作戦計画書添付付きのメッセージスクショだ。

 センドフロムがバイオのアカウント名のな」


「へー。

 じゃ、やー(あなた)が計画を漏らしたさー」


「違う!

 俺は、そんなメッセージを送っちゃあいない!

 だが、メンバーの誰も俺のそんな声を聞いちゃくれなかった。

 著しくチームの利益を損ねたコンプライアンス違反という名目で、俺は除名されたんだ。。」


「誰かに嵌められたさー」


「Ah。

 その後、バイオが件のスクショを専門業者に調査依頼したところ、タンパリング(改竄)の跡があることが判明した。

 さらに、タンパリング前のセンドフロムのアカウント名は、、」


「分かったのか?

 誰だったさー?」


 感情を押し殺した平たい声でバイオは言った。

「チームリーダーだった」



 ※1.CF作戦:巨大なCF(コントロールフィールド。3つのポータルをリンクで結んだ三角形のこと)を作成する作戦。

 ポータルを結ぶリンクは交差することができないため、巨大なCFを作るには、引こうとするリンクと交差する既存リンクをカットするメンバー(カット班)、

 CF各頂点からリンクを引くメンバー(リンク班)、マップを確認・状況判断し都度メンバーに指示を出すオペレーター等の各役割を持つメンバーが協力する作戦を事前に準備する必要がある。


 ※2.沈める:対象をCFで囲むことを、イングレス用語で「対象を沈める」と表現する。


 ※3.邪魔リンク:前述の通り、ポータルを結ぶリンクは交差することができない。

 このことを利用して、敵が引こうとするリンクと交差するリンクを引くことで、敵のリンクを引けないようにすることができる。

 このリンクを邪魔リンクと呼ぶ。


 ※4.デブリーフィング:軍隊用語で状況報告、事実確認の意。

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