第88話 裏目

【これまでのあらすじ】

 自らのために斃れたvahohoの意志を継ぎ、百八の魔星の頭領ドージェとして奮闘するたまごろうと行動を共にすることを決意した和田美咲。

 魔星に潜む八騎士の配下に薬を盛られ、監禁されたたまごろうは部屋からの脱出を計っていた。

 たまごろうに、八騎士の意図を尋ねる美咲。

 たまごろうは、アーティファクトが産まれ、八騎士の手の者が侵入したための足止めが目的と言うのであった。



 閉ざされた扉のロックをやすりで削る作業を続けながら、美咲はたまごろうに問いかけた。

「八騎士の手の者が侵入したって言ってもさ、既にここには八騎士の裏切り者がいて、あんたを閉じ込めたんだろ。そんなに状況は変わんないんじゃないの? 」


 美咲の質問に対して、たまごろうは左右に首を振り、

「侵入者は、ただの構成員ではない。恐らく八騎士内の中核を担う者。首領かそれに準ずる地位にいる人物」


「!!

 嘘だろ。そんな偉い奴が現場に出張るのかよ。だいたい、なんでそんなことが分かんだよ」

 たまごろうの言葉に、作業の手を一瞬止め、驚きながらも疑問を呈する美咲。


 やすりを動かす手のリズムを時に変えながら、たまごろうが話始める。

「3年前、私は不審な2人組を追ってクリスタルタワーに来た。彼らと戦い、敗れ、倒れ、目覚めたときには、クリスタルタワーは魔の塔Crystal Towerに変貌していた。

 その時、Crystal Towerのコントロールポータルは8人のレジスタンスエージェント※1にデプロイ※2されていた。大仏によると、その8人こそが八騎士を形成する8人の首領、いや騎士」


「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 情報量が多すぎて、ついていけねえよ」

 完全に手を止めた美咲が、たまごろうを見つめながら叫ぶ。


 たまごろうは、美咲をたしなめ、

「気持ちは分かるけど、ここを出ることが最優先。手は止めないで、聞いて。

 あなたの、質問に答えると、3年前にコントロールポータルをデプロイした8人のうちの1人のアカウントが、Crystal Towerの一階で確認された。今から約20時間前に」


 作業を再開した美咲が、尋ねる。

「一階で確認って、どうやって? 」


「裏ルートを通ってここに来たあなたは、知らないでしょうけど、通常ルートで上階に行くには、一階ポータルをキャプチャする必要がある。

 私は、そこに8人のアカウントのどれかがキャプチャしたらアラート検知できる仕掛けを施していた。そして、検知したエージェントを面談と称して捕獲する計画だった」


「捕獲に失敗したってこと? 」


「結果的にはね。

 その時、私は万全を期すため、大仏に相談した。折しも、大仏はvahohoと連絡が取れ、状況を説明、それを受けたvahohoは援軍としてここに乗り込むことになった。

 私は、それを待つことにした。だが、それが裏目に出て、面談前に眠らされ、ここに閉じ込められてしまったの」



 ※1.レジスタンスエージェント:イングレスの陣営の一つであるレジスタンスに所属するエージェント


 ※2.デプロイ:ポータルにレゾネーターを設置することによりポータルを所持または強化するアクション

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