第74話 3年
【これまでのあらすじ】
白田と黒崎は、勤務地であるクリスタルタワーが突如隆起する事件に巻き込まれる。
仮面を被った男による事件の説明会の後、仮面の男が拳銃を持った男に脅されるのを見た2人は、協力して仮面の男を助ける。
仮面の男は、ドージェと名乗り、脅された経緯を説明する中で、隆起を仕組んだのは八騎士であり、その目的はイングレスにより世界の富を独占することにあると言う。
八騎士からクリスタルタワーを守るため、レアアイテム”アンチウィルス”の取得を白田、黒崎に依頼するドージェであった。
仮面を被り、ポンチョを羽織ったドージェを先頭に、スーツ姿の白田、黒崎が後に続いた。
3人とも、周囲を警戒しながらも、やや速足で緩くカーブした通路を進む。
通路の左手に現れた扉の前で止まったドージェが、コンソールにパスワードを入力し扉を開ける。
ドージェの後に、扉をくぐった白田と黒崎は、部屋の中央に配置されたオブジェに近づきながら、スキャナを開き、
「こいつが、そうか。
ポータル名”Crystal Tower”。
MODは、”オニキスシールド”、”インフィニティリンクアンプ”か」
黒崎は、ドージェを一瞥し、
「あんたの言った通りだな。
ん!少し待て。
アーティファクト※1が入っているぞ」
「そうです。
そのアーティファクトが、レアアイテムを生み出す元。
ハックをお願いします」
ドージェの言葉に黒崎は頷き、スキャナ上で滑らかなグリフ※2を描く。
「出たぜ。
アンチウィルスが。
で、こいつを、デプロイする。
これで、ミッションクリアか。
ん!こいつは、一体、、
アーティファクトが消えたぜ」
自分のスキャナを確認したドージェは、安堵の声色で、
「規定回数のレアアイテムを吐き出すと、アーティファクトは消えます。
これで、次のアーティファクトが産まれるまでの間、レアアイテムは入手できません。
当面の危機は去ったと言えます」
「当面ね。
その含みのある言い方は、さっきあんたが言っていたレアアイテム”オニキスストライク”が起因しているのか」
「面白かあ。
最強の盾オニキスシールドを唯一破壊できるのは、最強の矛オニキスストライクという訳じゃなあ」
四角い顎を右手で撫でながら呟く白田に、ドージェは頷き、左手の人差し指、中指、薬指を立て、
「3年。
恐らく、3年後、オニキスストライクを入手するためのアーティファクトが産まれるはず。
八騎士はその時、オニキスストライクを入手し、再反転、世界を覆うCFを狙うことでしょう」
ドージェの言葉に、黒崎は眉間に皺を寄せる。
「3年間は安泰だが、その後、再び世界に危機が迫るという事か。。
ドージェ。あんたには、何か策があるのか?」
沈黙の後、ドージェは首を左右に振りながら、
「ありません。
私が、考えていたのはアンチウィルスのデプロイで、3年の時を稼ぐところまでです」
黒崎は白田と、無言でアイコンタクトを交わし、
「こういうのは、どうだ。
今、ここに残っている人間の中から協力者は募集して、3年後の策を練るんだ。
少数の考えより、多数の考えが勝るというのは、ネアンデルタール人を駆逐したホモサピエンスの例からも明らかだ。
まず、最初の協力者である俺たちも考えるがな」
黒崎の申し出に、ドージェは驚き、
「お気持ちは嬉しいのですが、危険です。
八騎士は、一般人であろうと敵対する人間に容赦はしません」
口の端を釣り上げる黒崎、
「面白いじゃないか。
俺たちは、力を笠に、自分たちのやり方を押し付ける連中に遜るつもりはねえ。
抗ってやるさ。例え、命を懸けてもな」
「面白かあ。
おいたちは、強大な勢力に対抗する少数精鋭の梁山泊をここに作るんじゃあ」
ドージェを見つめ、白田は愉快そうに破顔した。
「頭領である、天魁星はおはんじゃあ、ドージェどん!
そして、おいは、、
そうじゃのお、
天敬星を名乗らせてもらおうかのお」
苦笑いを浮かべる黒崎、
「おい、おい、水滸伝百八星に天敬星なんてないだろう?
また、”天を敬い、人を愛す”※3か。
あんた、本当にせごどん※4が好きだな。
鹿児島に行ったことも無いくせに」
「え!?」
驚くドージェに対して、照れくさそうに頭をかく白田の笑い声が部屋に響いた。
※1.アーティファクト:史的価値のある人工物を指す言葉。イングレスにおいては、イベント時に発生しポータル間を移動させるゲームに使用される。
※2.グリフ:グリフハックの略。イングレスにおいて、アイテムを取得する方法はポータルへのハックである。
グリフハックは、ハックの際、特殊な手順を踏むことでポータルより最大5つのグリフ(絵文字、象形文字を意味する英語 glyph)が高速で表示される。
表示されたグリフを正確になぞることにより、取得するアイテムを多く手に入れる事が可能となる。
※3.天を敬い、人を愛:常に修養を怠らず、天をおそれ敬い、人を愛する境地に到達することが大切であるということ。西郷隆盛の座右の銘として知られている。
※4.せごどん:鹿児島における、西郷隆盛の呼び名。西郷隆盛を主役にすえた大河ドラマのタイトルでもある。
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