第32話 苦悩の教授

【これまでのあらすじ】

 鉄壁の男vahohoに秘技を破られた和田美咲。

 vahohoの業(わざ)の秘密は複あかにあるが、DNA認証のスキャナーで複あかを成立させる方法を説明するvahoho。

 その鍵はアダムにあると言うのだが。。



「アダムって、アダム細胞?」


「知っているか?」


「あれだろ。アダムはありま~す、だろ」

 美咲は、数年前に存在を証明出来ず炎上した女博士の口調を真似た。


「ありま~すっつってたけど、結局無かったじゃん」


「いえ、アダムはあります!」

 それまで、黙って二人のやりとりを聞いていた教授と呼ばれたバーテンダーが静かに、だが力強く言った。


 突然の教授の言葉に美咲は

「な、なんで、あんたがそんな自信満々に言うんだよ」


「それは、、」

 言い淀む教授に代わってvahohoが答える。


「あの女博士は、教授の教え子だったのさ」


「えーーー!この人が?!なんで」


 驚く美咲。


 沈黙の教授に代わりvahohoが、

「女博士はアダムの製造に成功していた。

 だが、ある事情で発表出来ないばかりか、失敗を公表せざるを得なくなったのさ」


「どういうことだよ。

 ある事情ってなんだよ」


 教授は、肩を震わせ、唇を噛みしめる。

 そして、腹の底から声を絞り出した。

「私は、、私は、彼女を守れなかった。守れなかったのです。。」


 見えない痛みに耐えるような、硬い石を吐き出すような、聞いているほうがたまらなくなるような声 であった。


 苦悩する教授に戸惑う美咲。

 その瞳を見つめ、教授は

「いいでしょう。

 サーの仰る通り、彼女と似た目をした貴女には、すべてをお教えしましょう。

 こちらに来てください」


 バーカウンターから出て、奥のテーブル席に二人を案内し座らせた。


 ノートパソコンとプロジェクターを起動し、PowerPointのプレゼンを投影し、アンテナ型指し棒でスクリーンを指しながら説明を始めた。


「アダムは、正式名 Anti Deoxyribonucleic Acid Method (反DNA制約)の略称ADAMです。

 先刻からお話しされていた通り、一つの生物には、一種類のDNA情報が紐付きます。

 アダムは、その制約を解除するものなのです。

 つまり、一つの生物に複数のDNA情報を紐付けるHUB細胞なのです。

 それは、医学の世界で大きな意義を持ちます。

 生体移植におけるハードル、それは、細胞の拒否反応です。

 生体が複数のDNAを許容出来れば、拒否反応が無くなります。

 つまり、アダムとはiPSとは別アプローチの万能細胞なのです」


 一方的で、早口な教授のプレゼンを美咲は、ほぼ理解出来ず、vahohoに助けを求めるように視線を向けた。

 そこには気持ち良さげに寝息をたてている姿があった。

「おっさん。。」


「はは、お嬢さん。

 いつものことです。

 サーは、いつもこの辺りで眠ります。

 サーにとって、プロセスは重要では無いのです。

 重要なのは、結果のみなのです」


「あ、あたしも、結果だけでいいんだけど。。

 ってか、サーっておっさんのこと?

 なんで、サーなの?」


「それは。。」


 教授が、答えようとしたとき、vahohoがうなされだした。

 脂汗を流し、首を左右にふり、突然上体を起こし叫んだ。


「やめろ!」


 美咲は、呆気にとられた表情でその姿を見つめていた。

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