第4話 アダム

 私は、迷っている。あのときの高揚感はとっくに消えている。

 昨日の教授の言葉が原因だ。

「確かに、あれには無限の可能性がある。だが、よく考えて欲しい。逆に言えば悪用されたときのリスクも無限大だ」

 出来れば、今年中には完成させたい。だが、教授の言うように、確かにリスクはある。


 迷いの中、集めたデータの分析を始める。


 迷いのせいか、疲れのせいか、あり得ない結果が出た。

 分析の計算メソッドに間違いがあるのかもしれない。

 時間はかかるが、計算メソッドを最初から検算したほうがよさそうだ。


 6時間の検算の結果、計算メソッドに問題がないことがはっきりした。

 次に疑われるのは、インプットデータの設定方法の間違いだ。

 こちらは、チェックにそれほど時間はかからない。


 一つ一つ丁寧に確認する。

 問題は無い。

 ということは、分析結果は正しいということ。

 それの意味することを時間をかけて考える。

 考えれば、考えるほど体が震えてくる恐怖に苛まれる。


 まずは、教授に報告しよう。

 教授の部屋に向かう数分のうちに、彼女の決意は固まった。


 深夜にも関わらず、教授は部屋で執筆していた。

「失礼します」

「どうした、珍しいな。こんな時間に」

「教授の仰る通りでした。あれは、まだ、発表すべきではなかったのです。私が馬鹿でした」

「どういうことかね?」

「あれを投入したマウスの経過観察の分析結果です。見てください」

「こ、これは。。あり得るのか?こんなことが。。」

「事実です」

「事実なら、大変なことになる」

「心配には及びません。すべて処分します」

「何!しかし、あれは論文として発表済みじゃないか。検証を求められたらどうするんだ」

「私が独断でデータを捏造したことにするしかありません」

「そんなことをしたら、学会を追放されるだけじゃすまない。世間から激しいバッシングを受けるぞ」

「仕方ありません。あれが、世に出ることに比べたらとるに足らないことと思います。教授にもご迷惑をお掛けします。申し訳ありません」


 私は、部屋を出、データの消去を始める。すべてが、終わった。だが、これで良かったんだ。

 後は、マウスを殺処分するだけ。オリジナルのアダムを。

 アダム、ゴメンね。。。え、おかしい。反応が違う。そ、そんな。。ま、まさか。

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