第70話 悔い
【これまでのあらすじ】
鉄壁の男vahohoとともに、三宮地下大空洞、地下湖、海底トンネルを通ってCrystal Towerに辿り着いた和田美咲。
目的階へのエレベーターの扉を開く条件を満たすため、武装ドローンとポータルを取り合う美咲とvahoho。
扉が開いた直後、アクシデントにより武装ドローンの自動小銃で銃撃を受けた美咲は、意識を失う。
意識を取り戻した美咲は、vahohoが自分を守るため瀕死の重傷を負ったことに気付く。
vahohoは、美咲に先に進むように指示し、美咲を外に出し、一人エレベーター内で斃れるのであった。
後少しであいつをエレベーターから出せたのに。
そうすれば、治療を受けさせて助けられたかもしれないのに。
なんで、さっき背中に担いだ時、あいつがそうすることに気付かなかったのか?
動けない自分を置いて、私だけを先に進めさせようとすることくらい、想像できたはずだ。
短い付き合いだけど、あいつはそういう漢(おとこ)だ。
いつだって、自分の事より私の事を考えていたんだ。
あいつは、何にも言わないけど、そんなこと分かっていたはずだ。
なんで、スキャナーをバッグに閉まった後ファスナーを閉めなかったのか?
転んだって、バッグからスキャナーが飛び出さなきゃ、ドローンは攻撃なんかしなかったのに。
ドローンが私を狙ったら、あいつは私を守ろうとするに決まってんだ。
そんなの、分かってたんだ。
何かを守ること。あいつがやることはそれなんだ。
でも、なんだって、自分を守らねえんだよ。
なんで、さっきゴールの南西の扉から対面に位置する北東の扉を最後に残してしまったのか?
よく考えれば、南や西の扉を最後にすることが出来たはずなんだ。
あいつが、守ってくれることを当たり前だと思い過ぎていたんだ。
なんで、さっきのフロアに向かうエレベーターの中で足をストレッチしておかなかったのか?
エレベーターの中で足が攣りそうなこと事に気付いていたのに。
一度クリア出来たからって、気が緩んでいたんだ。
なんで、最初にさっきのフロアに着いたとき、スキャナーで位置を確かめておかなかったのか?
初めての場所ではスキャナーでポータルを確認することなんてエージェントの基本じゃないか。
確かめてさえおけば、最初に正解の扉が分かって、無事にここに辿り着けたのに。
それを、あいつ一人のせいにして。
なんで、地下の湖にあいつが飛び込んだ時、逆らわずに一緒に飛び込んだのか?
何をやるかも聞いていないのに、一緒にいけば何とかなると思っていたのか。
あいつがいれば、私は何も考えなくていいと思っていたんだ。
いつだって、そうだ。
私に、あいつの代わりなんか出来るはずがないんだ。
なんで、教授の店で、あいつがうなされた時、何があったのか聞かなかったのか?
聞いていたら、ここで何があり何をやるべきなのか事前に分かっていたんじゃないのか。
そうすれば、もっと上手くやれたんじゃないのか。
なんで、公園であいつと会ったとき、ぶん殴られたのに付いていったのか?
敵のエージェントについていく理由なんかなかったのに。
あいつの言う”大義”って言葉と、あいつの複あかに興味があったんだ。
あの時、付いていかなかったら、あいつは私なんかじゃなくもっと役に立つエージェントを連れて行ったじゃないのか。
いや、仮に付いていったことが間違ってなかったとしても、教授の店で、あいつがうなされた時、何があったのか聞くべきだったんじゃないのか。
鉄壁の男vahohoと別離(わかれ)を遂げた和田美咲は、エレベーター前で両膝、両肘を着いて蹲った姿勢のまま、
別離(わかれ)から出会いまで遡り、そして、逆に出会いから別離(わかれ)まで辿ることを繰り返し、
すべての決断が間違っていたと悔い、自分を責めていた。
自分の一つ一つの間違いが、あの世界を救うべき漢(おとこ)を死に近づけたのだと。
内部では無限に終わらない旅を繰り返すが、外見上、体勢は変わらず、時として微かに震え、嗚咽を漏らす。
そんな時間がどれくらい続いたのか。
その時、美咲は、微かな音に気が付いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます