第50話 たまごろうの決断

【これまでのあらすじ】

 ウミエに遊びに来た途中に怪しい2人組を見つけたたまごろうは、2人を追うためクリスタルタワーへ向かう。

 激しい追跡戦の末、銃弾に倒れるが、体内のにゃんたろう、そしてアダムの能力で蘇生し、塔のセントラルコントロールルームで陰謀を知る。

 旧知の医師が八騎士から逐電した”火”であることに気付いたたまごろうが、連絡をとると、”火”は自身について語り始めるのであった。



「ほんの数時間前だ。奴と、”金”と分かれたのは。

 君が、コントロールポータルを反転すると分かっていれば、奴と合流してそこに乗り込んだのだが」


「彼とは、連絡がとれないのですか?」


「うむ。奴から私に連絡を取る方法は取り決めたのだが、迂闊にも私から取る方法は決めていない。

 奴も八騎士の力を知る用心深い男だ。連絡は取れまい。

 奴からの連絡を待つしかない。何年後になるか分からんが」


「私は、どうすればよいのでしょう?」


「我々が作った策を実行してほしい。

 現在のCrystal Towerは、外から内に入るルートを1つだけ開けているはずだ。

 八騎士の配下の者が、万一に備えて入るためのルートを。

 そこを、塞いで欲しい。

 いや、正確には、”金”と私だけが通れる設定にして欲しいのだ。

 君の目の前にあるコンソールだけが、その設定を可能にする。

 まず、ディスプレイに、Crystal Towerの全体図を出すんだ」


 たまごろうは、言われた通りディスプレイに最初に表示されたCrystal Towerの3D画像を表示させた。


「地下から上に向けて赤い線が無いか?」


 画像を一番下にスクロールすると、一番下の部屋から上に向けて赤い線が伸びていた。

「あります」


「赤い線を辿って、途中にある部屋をタップしてくれ」


 線を上に辿ると、途中に円形の部屋に辿り着きタップした。

 部屋の拡大画像が表示される。


「部屋の画像の右上の歯車のマークをタップして、表示されるモード選択欄に817を入力してくれ」


 言われた通りの設定をした。

「できました」


「うむ。これで外から奴等が入ってくることは防げる。

 ありがとう。

 後は、君も外に出てくれ」


 ”火”からの言葉に違和感を覚えたたまごろうは、それをぶつけた。

「待ってください。

 先ほども言いましたが、現在Crystal Towerには100人以上の人が残っています。

 その人達の中に、八騎士の配下がいないという保証があるでしょうか?」


「!?

 そうか!迂闊だった。

 確かに、その可能性がある。

 当然考慮すべきことだった」

 冷静な”火が、初めて動揺の声をあげた。


「先生。

 私は、ここに残ろうと思います。

 そして、残った人たちがすべて、ここから退出するのを見守ります」

 覚悟を込めた声色でたまごろうは、応えた。


「何を言っている!?

 危険だ。

 それに、君にはあの症状が」


「先ほども申しましたように、恐らくこの先、症状が出ることは無いと思います。

 既に、2時間仮面無しで過ごしています。

 それに、すでにある傷は消え、新たに傷が増えることもありません」


「なんだと。。

 仮面無しで2時間だと。

 では、少なくとも症状が治まっているのは間違いない。

 信じられん。

 だが、理由が分からん」


「理由はともかく、症状のことは気にする必要は無いかと思います」


 暫しの沈黙。そして、

「そうだな。

 この件が終わったら、詳しく診せてほしい」

 ”火”の言い方には、長年背負っていた荷物の1つを降ろしたかのような安堵感があった。


「分かりました」


 熟考の末、”火”はたまごろうに依頼を出した。

「で、君がここに残って、全員の退出を監視する件だが、すまないがお願いしたい。

 ただし、何か問題があれば、すぐに私に連絡をしてほしい。

 そして、決して無理はしないように」


「はい。

 何かあれば、すぐに先生に連絡します。

 先生が見守っていただけると思うと、本当に心強いです」


 たまごろうの言葉を受け、今までとは異なる、砕けた口調で”火”は話しかける。

「1つ頼みがあるんだよ。

 私のことを先生と呼ぶのは、もうやめてくれ。

 君にとっての医師という役割は終わったと思うんだ。

 と言っても、”火”と呼ばれるのも、今は違う」


 暫く間を置き、言った。

「そう、これから俺のことはこう呼んでくれるかい。


 ”大仏”と」

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