炎風吹きすさぶ ~最古の八騎士~
dobby boy
プロローグ
第1話 神戸北野坂の出会い
神戸の山手、閑静な北野坂を一人の男が歩いている。闇夜に映えるピンストライプのジョルジオアルマーニを自然に着こなし、時折スマホを操作し、淀みなく路地を進んでいく。
幾度か角を曲がり、スマホを確認しながら、古びた教会の前で静かに歩みを止めた。教会の前面には小さな庭があった。建物の陰になっている部分を凝視し、男は静かに語りだした。
「ヘイ、ようやく会えたようだな。伝説のエージェントに」
陰の部分が僅かに動き、男の問いかけに答えた。
「伝説のエージェントだと。あんた、何を言っているんだ。人違いだぜ」
陰の部分から痩身総髪の若い男が音もなく姿を見せた。
アルマーニの男は現れた総髪の若者の姿を目にし、満足そうに
「ノー。ミーの目はごまかせない。ユーは、巨大CF作成を得意とするチームBIO※1のエースエージェントだ。たまたま、ここらで遊んでいたらユーがプレイしているところが目に入り、追いかけてきたんだ。陣営は別だが、ミーはユーのファンなんだよ。会えて光栄だ。思った通りユーはいい目をしている」
総髪の若者は、体を硬直させ、
「チームBIO。。。チームBIOだと。うおーーーー」
突然激情に駆られ、絶叫する姿に、アルマーニの男は動じることなく優しく語りかけた。
「どうしたんだ。癪かユー」
予想外の優しい声に、総髪の若者の心が動いたのか、震える声で真っ直ぐに言葉を紡いだ。
「お、おれは、俺はチームはもう抜けた。いや、利用されて、捨てられた。ううう」
総髪の若者の声と姿に尋常でないものを感じたアルマーニの男は、それまでの明るい口調を改めた。
「何があったんだ。ユー。よければミーに話してくれないか」
総髪の若者は、声を掠れさせながら、切れ切れに事情を話しだした。
チームBIOである作戦が計画されたこと。
計画書が事前に敵チームに渡ったことにより、実行段階で作戦が失敗したこと。
若い男のアカウントから敵チームに計画書を送付したスクショがチームメンバーに回覧されたこと。
それにより、チームから除名されたこと。
除名後、身に覚えのない男が疑いを晴らそうとしても、チームメンバーのだれとも連絡が取れないこと。
「サムバディに嵌められたか」
「分からない。だが、そうだとして一体誰が、何のために。。。」
「Mmm。きなくさい話だな。見えていないことが多すぎる。とりあえず、関係者に会って話を聞くしかないだろうな」
「俺も、そう思って片っぱしからメンバーと連絡を取ろうとしているんだが、誰とも繋がらないんだよ」
アルマーニの男は、暫く考え
「ミーに考えがある。一つミーに任せてくれないか」
総髪の若者は、怪訝な表情で尋ねた。
「それは、いいんだが、なんであんたは初対面の俺にそこまで親身に動いてくれるんだ。一体あんたは誰なんだ」
アルマーニの男は真摯に答える。
「ソーリー。名乗るのが遅れた。ミーの名はグリ。実はミーもチームBIOには借りがあってな。返したいと常々思っていたんだ。SO。これはユーのためというより、ミーのプロフィットのために動きたいんだ。アンダスタン?」
「分かったよ。グリさん。まずはどうすればいい?」
少し晴れた表情になった総髪の若者を見て、アルマーニの男グリは、明るい声で指示を出す。
「まずは、ユーはファクションチェンジ※2してミーと同じレジスタンス※3になるんだ。BIOの連中は、明らかにエンライテンド※4としてのユーを避けている。やつらの裏をかくんだ。
そして同じタイミングで、エージェント名をBIOに変えろ。やっこさんたちはそれを見て必ず何かのリアクションを起こすはずだ」
「BIO、バイオか。。悪くない。分かったぜ。グリさん。俺は今日からレジスタンスのバイオ。チームBIOを狩るものだ!」
若い男バイオは、憑物が落ちたような精悍な表情で吠えた。その眼光は見えない敵を射るがごとく鋭さを湛えていた。
※挿絵
https://kakuyomu.jp/users/dobby_boy/news/16817139559087205491
※1.チーム:ポータルを結ぶリンクは交差することができないため、巨大なCFを作るには、引こうとするリンクと交差する既存リンクをカットするメンバー、CF各頂点からリンクを引くメンバー、マップを確認・状況判断し都度メンバーに指示を出すオペレーター等の各役割を持つメンバーで構成されるチームで行う必要がある。
※2.ファクションチェンジ:ゲーム開始時に選択した陣営を変更することは容易ではない。ただし、最高レベル16となったエージェントが、レベル1に戻すことで、陣営を変えることが可能。この陣営を変える行為をファクションチェンジという。
※3.レジスタンス:2つ存在するイングレスの陣営の一つ。
※4.エンライテンド:もう一つのイングレスの陣営。
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