第30話 メロンパンと懊悩

 「見てたよね?」

 「な、なんのことかな!?」


 翌朝、俺の席の前で早見さんは美緒に詰め寄られていた。

 オマケに美緒に脇腹を激しくこちょこちょされていて藻掻いている。

 

 「まぁ早見さんのことだから言いふらしたりすることもなさそうだけどな」


 他人に余り聞かれたくないやり取りだから俺は話が終わる方向に仕向けた。


 「そ、そうだよ!?誰にも言わないから!」


 美緒の猛攻に耐えかねてか早見さんは、そう言った。  

 そして、しまった!というような表情になる。


 「お、口滑らしちゃったね?」


 そんな早見さんを見てニマニマと人の悪い顔をした美緒は早見さんの足の間に自分の足を挟み込んだ。

 そして何かを耳元で囁く。

 途端に早見さんはポンッと顔を赤らめた。


 「ふ、ふえぇっ!?」


 早見さんが変な声をあげるとクラスメイトの視線が集まる。

 さらに美緒が耳元で囁くと


 「ひゃ、ひゃいっ!」

 

 譫言うわごとみたいな返事をして早見さんは顔を俺の机に埋めるのだった。

 

 「お前、何したんだ?」


 美緒がどんなことを言ったのかが気になって俺は訊いた。


 「むふふ〜、乙女の秘密」


 人差し指を口に押し当てながらそんなことを言った。

 なんだよ乙女の秘密って……。

 でもまぁ女子の関係が男子みたいに単純でないことは何となく察しがつくので聞くのはやめておくことにした。


 ◆❖◇◇❖◆


 「はぁ……」


 昼休み、いつも友達と囲むはずのお昼を今日は一人で食べたい気分になって私の足は屋上に向かっていた。

 悠亜には心配されたけど愛想笑いで大丈夫、と言っておいたから誰かに今の私の表情を見せることもない。

 でも一人になると、ますます思い出したくもない過去を思い出してしまう。

 

 「はぁ……」

 

 零れるのはため息ばかり。

 すると横に誰かが座った。

 膝を抱えて俯いた私の視界に映るのはズボンだけ。

 

 「随分と重いため息だな」


 聞き覚えのある声に安心して私は少しだけ顔を上げた。


 「美緒に聞いた」


 ほいっとメロンパンを差し出してくれたのは、和泉くんだった。

 差し出してくれたメロンパンはただのメロンパンじゃなくて火曜日限定販売のメロンパン。

 そう言えばこれが好物だって美緒ちゃんには話したんだっけ。


 「子供っぽいって思った?」

 「いや、ちっとも」

 「そっかぁ」


 和泉くんが差し出したメロンパンを受け取る。

 

 「美緒ちゃんに言われてここに?」


 美緒ちゃんは多分、今日の私を見て変だと思ったんだと思う。

 上手く隠せてるつもりでも分かる人には分かってしまうらしい。


 「いや、何となく様子がおかしかったから気になってつい……。行こうとしたら美緒がそれを買うといいって言ってたから買った」

 「これ、160円だよね?」


 私を心配して来てくれたのに、パンまで奢らせちゃうのは良くない。

 そう思ってお金を支払おうとすると和泉くんはその手を止めた。


 「俺の善意で勝手にやってることだから心配するな。その代わりに良かったら話を聞かせてくれないか?」


 和泉くんは真面目な顔で私の酷い表情をしているだろう顔を覗き込むのだった――――。

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