第41話 二人三脚とストッキング

 ペア決め直後の体育、日程に余裕が無いためか授業内容は各々の種目の練習だった。


 「足を結ぶのは、私のストッキングでもいいかな?」


 早見さんはポケットから一対のストッキングを取りだした。

 随分、用意がいいんだな。

 ひょっとして最初から二人三脚に出ることを想定してたとか……あるわけないか。


 「あ、今使ってるやつじゃなくてお古だけど……ダメ?」


 俺が黙っていると不安そうな顔で早見さんは俺の顔を覗き込んだ。


 「あぁ……なんでも構わない」

 「なら結ぶからキツかったら言ってね?」


 早見さんは二本のストッキングを纏めて結んでいく。


 「なんでストッキングなんだ?」


 同じ種目に出る他の人達は見たところ、タオルやバンダナだった。


 「伸縮自在だから他のものよりいいかなって。それに競技規則に結ぶための物に関しては指定がなかったから」


 なるほど結んで走ったとき、足が痛くならないということか。


 「早見さんは気が利くんだな」


 そう言うと早見さんは何か思いついたような顔をした。


 「その早見さんって呼び方、やめない?」

 

 結ぶ手を休めた早見さんは、俺の顔を間近で見つめた。

 

 「なんでだ?」

 「だってほら二人三脚は、二人の連携が大事だよね?それには二人の仲を円滑にする必要があって……それでその……私も怜斗くんって呼ぶから私のことも陽菜って呼んで欲しいなって」


 顔を赤らめながら指をモジモジさせて言った。


 「ほら、呼んでよ……!」


 茹でダコもかくやという程に顔を赤く染める早見さん。


 「ひ、陽菜さん……」


 美緒のときにはあれほどすんなり出来た名前呼びも、何故だか今は甘酸っぱさにあてられたのか凄く恥ずかしく感じた。


 「れ、怜斗くん……ってきゃあ!?」


 俯きがちに言った早見さんは次の瞬間、視界の外だった。

 代わりに俺の視界にアップで映る美緒の顔。


 「むぅ〜」


 むくれ顔のまま美緒は周囲を手で払った。


 「甘酸っぱすぎて吐きそう」


 美緒は不機嫌そうに言った。


 「せっかくいい所だったのに邪魔しないでよー」


 早見さんは美緒に抗議した。


 「これは仁義なき乙女の戦いなんだから致し方なし」


 意味はよく分からなかったが美緒はキッパリと早見さんに向かって言うと二人三脚のペアの元へと戻って行った。


 「何が仁義なき戦いなんだ?」


 仁義なき戦いって広島ヤクザ戦争のドキュメンタリー映画だったよな?

 一体それとなんの関わりがあるのだろうか。

 

 「和泉くんは、まだ知らなくていいの!」


 俺の疑問は一蹴され結局、呼び方も元に戻っていた。

 ちなみにその日の早見さんとの二人三脚の練習は、どういうわけか他の二人組よりも息が合っていなかった。

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