第44話 やらかし

 一進一退の攻防、そんな言葉が似つかわしい点の取り合いで私達の緑組は、生徒会種目へと突入した。


 「悠亜と美緒ちゃん、上手くいくかな……?」


 今までそんなに交流のなかった二人がタッグを組む二人三脚の第三走。


 「あれでいて美緒は、こういう時に上手く人に合わせられるから問題ないだろう」


 普段はルーズな美緒ちゃんだけど必要に迫られればそれなりに上手くやるのだ、と怜斗くんは教えてくれた。

 そんなことを話しているうちにバトンが二人へと渡った。


 「えっ……?」


 二人の姿に思わずびっくりした。

 悠亜と美緒ちゃん、思った以上に息ぴったりで歩調を乱さず速度を維持したまま二人三脚に成功させていた。


 「言ったろ?」


 怜斗くんは美緒ちゃんが上手くいっているのが嬉しいのか笑みを浮かべていた。

 

 「「いち、に、いち、に」」

 

 声が聞こえなくても二人とも同じ口の動きをしていて何を言っているのかは容易にわかる。

 コーナーで前を走っていた二人組を抜いて順位を詰めた。

 負けてられない……。

 改めてもう一度、怜斗くんの足と私の足を結ぶストッキングを確認する。

 異常はない。


 「頑張って!」


 そんな美緒ちゃんの声と共に、バトンパスゾーンに滑り込んできた二人からバトンを受け取った。


 『今種目で唯一の男女ペア、果たして連携はとれるのか!?』


 そんな放送とともに私は怜斗くんとスタートをきった。


 「いち、に、いち、に」


 走り出しは順調、僅かなタイミングのズレも伸縮自在な生地でできたストッキングが許容してくれる。

 練習通りに上手くいっていた。


 「抜けそうだから、ちょっと右寄りで」


 怜斗くんが数えるのをやめ、指示を出してくれる。


 「わかった。いくよ!」

 

 コーナーに入って僅かに進路を右に取り、前を走っていた二人組の横へと並ぶ。


 「陽菜ーがんばれぇっ!」

 「和泉ー、抜かせーっ!」


 クラスメイトの声援に背を押されながら前の組を追い抜いた。

 怜斗くんと美緒ちゃんの間に入れる隙間なんてないんじゃないか、心の何処かでそう思っていたけれど、私だって怜斗くんと一つになれるんだ!

 沸き上がる嬉しさに私の気は早った。

 それが全ての過ちだった。

 

 「あっ!?」


 途端に乱れる足並み。

 地面を離れ浮き上がる身体。

 一瞬理解が遅れて姿勢を立て直すことも出来ない。


 「きゃあっ!!」


 私は盛大に転んだ―――――やっちゃったな私。

 痛む足に目をやれば、生々しい傷跡が出来ていた。


 「立てるか……?」


 怜斗くんが私の顔を覗き込む。

 私がズキズキとした痛みに顔を顰めると怜斗くんは足を結ぶストッキングを解いた。


 「一緒にゴールしたかったのにな……」


 痛くて走るなんてことはもう無理。

 名残りおしさを感じながら、私はその手を見つめた。

 すると怜斗くんはニコッと笑った。


 「なに、これでもゴールはできる。乗っかれ」


 私に背を向けて片膝立ちをする怜斗くん。

 私は言われるがままに、その背中におぶさった。


 「重くない……?」

 「そんなに重くない」


 怜斗くんは私を背負ってゴールまで歩いていく。

 ほかのクラスは既にゴールしていて、失格になることも分かりきっていた。

 でも怜斗くんは顔色一つ変えずにゴールの線を跨いだ。


 「失格になっちゃったね……ごめん」

 

 せっかく狙えた一位を棒に振った私は罪悪感を感じた。

 でもそんな私を包んだのは、クラスメイト達や観客達の優しい拍手だった。


 「ありがとう」


 怜斗くんにお礼を言って、名残惜しいけれどその背中から降りた。

 流石にこれ以上、くっついているのは恥ずかしかった。

 そしてこうも思った。

 また、好きになる理由が増えちゃった――――。

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