第57話 おサボりモーニング

 ただお互いの温もりを感じあって明けた夜は、久しぶりに熟睡出来た気がした。

 この数日、自己嫌悪に苛まれていた俺の寝覚めの顔は酷いものだった。

 浅い眠りを繰り返し、見る夢は自分を追いやるものばかり。

 昨日、ちゃんと話し合って許しを得て……いや、許されたかどうかは分からないが、少なくとも言葉を交わしただけでだいぶ気は楽になった。


 「起きたの?」


 ベッドを抜け出したときに起こしてしまったのか、美緒が眠い目を擦りながら身体を起こした。


 「急いで何か作るよ」


 もう朝もいい時間だった。

 窓からは通りを行く学生の姿がちらほら、まだ夏休みには入ってないらしい。


 「美緒は学校だろ?」


 エプロンを着ながらそう言うと、


 「行かない」


 猫なで声で美緒は後ろから抱きついてきた。


 「手が動かしにくいんだが……?」


 いつも以上にべったりな美緒に苦言を呈すると美緒はそっと耳元で囁いた。


 「朝食代わりに怜斗が食べたいなって」


 いつもの呼び方じゃなくて、どことなく距離が近くなったような感じだった。


 「なぁ、なんで今日はそんな積極的なんだ?」

 「埋め合わせして欲しいんだもん」


 ちょっぴりいじけたような言い方で美緒は上目遣いにこちらを見てくる。


 「わかったわかった。でも、朝ごはんの後な?」


 それに出来れば家事だってやってしまいたい。


 「むぅ……」


 不満そうな顔をする美緒を宥めつつ朝食を作るのだった。


 ◆❖◇◇❖◆


 「流石に夏の真昼間にすることじゃなかったな」


 クーラーをつけていても肌がベタベタとしていて気持ち悪い。


 「でも飢餓感からは開放されたよ?」


 アイスコーヒーをカップに注ぎながら美緒は満足気に言った。

 てか、飢餓感って何だよ……。


 「なぁ、水風呂でも入らないか?」


 小さい頃、夏は姉とよく水風呂に入っていた。

 それを思い出して提案すると、


 「賛成!!」


 と美緒は思いの外、乗り気だった。

 

 「知ってる?水風呂って美容効果あるんだよ?」

 「そうなのか?」

 「皺とかたるみに効果あるし、新陳代謝が向上するからターンオーバー効果も得られるんだって」


 そんなこと気にしなくても美緒は十分可愛いと思うんだけどな……とは思っても、恥ずかしいから面と向かっては言えない。


 「女子って大変なんだな」

 「そうだよ、好きな人に振り向いて貰うためには何だってするんだよ?」


 もういつも以上に好意を剥き出しにしてくる美緒を直視出来ない。

 俺だったらそんな言葉、言えないのに凄いな。

 剥き出しの好意に落ち着かなさと居心地の悪さに戸惑っている俺を美緒は楽しそうに見ていた。

 そんなこんなで、言葉が続かなくなったタイミングでバスタブに水が溜まった。


 「水着なんて用意しちゃっておかしいね」


 美緒は俺が手に持った海パンを見て笑った。


 「そ、そうか?」


 美緒は下着すらも身につけていない生まれたままの姿だった。


 「だって身体隠すなんて今更じゃない?」


 さっきまで求め合っていたばかり、いつもは部屋の明かりを落としているのに今日は昼間だから明るかった。

 脳裏にフラッシュバックする美緒の白くて綺麗な肢体。


 「まだできそうだね」


 美緒は俺の下半身を見つめながらそんなことを言ってみせたのだった―――――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お隣さんは陰キャっぽいのにエッチなクラスメイトでした。 ふぃるめる @aterie3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ