第53話 後悔
『――――というわけで夏休みが二週間伸びたな。まぁ、冷静になれ』
夜八時も過ぎた頃、担任の喜連川から処分が言い渡す電話が来た。
結局、占部や酒巻、江尻と同じく俺も二週間の外出禁止処分となった。
と言っても言い換えれば夏休みが二週間伸びたようなものなので、俺は随分と気楽でいられた。
担任との電話が終わった頃、もう一本の電話が画面に写った。
『怜斗、聞いたよ?手を上げたんだって?』
スピーカー越しの母親の声は、画面に写った通知で名前を見たときに覚悟したほどには怒ってはいなかった。
「あぁ……考えるよりも先に体が動いていた」
何も言い訳にはならない答えだが、これ以外に言葉が見当たらない。
『美緒ちゃんを守ったんだから、誇っていいと思うよ!』
怒りもせずむしろ、褒めさえする母親の言葉に俺は疑問と確信を得た。
ガシャン―――――
『どうしたの?なんか大きな物音聞こえたんだけど?』
スピーカーから聞こえてくる母親の声が、何の引っかかりもなくただ流れていく。
俺は…俺は……今まで何てことをしてきたんだ……!?
自問自答。
何度か覚えた違和感にそんなことは有り得ないと蓋をし続け、新妻さんの優しさを享受し続けてきた。
「あぁ……俺は……」
いつもと同じように蓋をしてしまいたい。
でも確信を得てしまった以上、そんなことはできない。
母親の言葉から出た「美緒ちゃん」という名前。
母親がその呼び方をするのは間違いなく――――小学校のときに別れた美緒なんだ。
キッチンで洗い物をしてる新妻さんと目が合う。
「……どうしたの……そんな顔をして」
美緒もまた何かを悟った、そんな顔で俺を見つめた。
「やめてくれッ!!」
咄嗟に出たのは拒絶の言葉。
自分でも驚いた。
そして自分でも気づいた。
あぁ……今の俺には新妻さんとと話す資格はないんだって。
「荷物を纏めなきゃな……」
すっかり慣れ親しんでしまったこの部屋での生活の記憶が今は、毒のようで激しく心を蝕んだ。
「なんで……どうして!?」
幸いにしてこの部屋には必要最低限のものしか持ち込んでいない。
「なんで荷物なんか纏めてるの!?」
俺の目の前にやってきて、俺の手を止めようと掴んだ新妻さんの手を俺は払った。
自分の犯した過ちに、その顔を直視することすらもはばかられて言葉を返そうに上手く喉から言葉が出ない。
ようやく伝えるべき言葉がまとまった頃には荷物を纏め終わっていた。
「ごめん……俺、この部屋から出ていくよ。新妻さん、俺なんかが隣人でごめん……最低だよな、俺……」
「ッ……ぁッ……」
目の前にいる新妻さんとは顔を合わさないようにして、俺は彼女に背を向けた。
明日からはあの日ここで出会う前のただの隣人に戻ろう。
それが嫌なら言ってくれ――――そのときはここを引き払うから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます