第52話 事情聴取
「――――で、カッとなって胸ぐらを掴んでしまったと……」
事情を知る早見さんや生駒さん、被害者の美緒、手を上げてしまった俺、美緒に心無い言葉を浴びせた占部と酒巻、噂を流した江尻の五回に分けて教頭とそれぞれの担任、生徒指導の教師の三人が一斉に会する形で事情聴取が行われていた。
「その理解で間違いありません」
先に手を出してしまったのは俺だが、何も恥じることは無いので聞かれたことには正直に答えた。
「はぁ……」
担任であり現国の教師である喜連川は、ため息混じりに俺を見つめた。
「成績も優秀な部類の君は、手を出したらどうなるかくらいわかっていただろう?なぜ手を上げたんだ?」
言ってしまえば犯行動機を聞かれているわけか。
「そうですね、一言で言えば彼らを許せなかったからでしょうか。そしてそれを傍観することは無論簡単でしょうがそれではイジメを止められないと判断してアクションを起こしたかったんでしょう。そのせいもあってかか現に明るみに出ることになりましたから」
俺の言葉に担任以外は頭を抱えた。
「新妻さんは、君にとってその……特別な人なのか?」
特別な人……か。
「そうですね……だから尚更黙って見てられなかったのかもしれません」
おそらく喜連川は、俺と美緒との家が近いことは知っているはずだ。
となれば今の俺の言葉でいろいろ察しただろう。
俺の言葉に喜連川は笑った。
「そうか……教師として君を罰しなければいけないのが心苦しいよ。人間としては非常に好ましいからね」
喜連川は俺の行動を擁護するような発言をした。
「喜連川先生、その言葉は少し――――」
生徒指導の教師が苦言を呈するが、その言葉を喜連川は遮った。
「大事な人が多数の人間に叩かれている状況で、先生には守るためにそこへ飛び込む勇気があるのですか?」
生徒指導の教師の方が二十代の喜連川より年上にあたるが喜連川は物怖じもせずそう言った。
「それはしかし……」
生徒指導の教師は喜連川の言葉に押されて黙った。
「私が言いたいのは情状酌量の余地があるのでは?ということですよ。そして酒巻、占部、江尻を厳罰の処す必要もあるのでは?ということです」
俺のして欲しいことを喜連川は理解していた。
「他に君の要望があったら言いなさい」
教頭がそう口にした。
おそらく喜連川に同調したのだろう。
「そうですね……美緒の噂の影響を少しでも減らすために、全てを公開してください」
そうすれば美緒に非はないし、噂のような事実は存在しないと少しでも他の生徒に広がることだろう。
「私たちも生駒さんや早見さんの提供してくれた映像は見ました。可能な限り、努力しましょう」
傍から見れば事態は暴力沙汰となった以上、きっと悪い展開という認識なのだろう。
だが俺にとっては、最良の展開だった。
イジメの存在を教師たちに認知させ解決のために教師が動いてくれるのだという。
あとは占部たちの供述次第だが、もっとも映像という揺るがぬ証拠がある以上、こちらの優位は崩れないだろうというのが俺の見立てだ。
久しぶりに今日はよく寝れそうだな……。
この数週間、渦中の美緒が気になって俺はしっかり寝れた実感がない。
「今後、他の教師たちとも相談して君の処遇は決めることになるかと思います。今日は家に帰りなさい」
「分かりました。よろしくお願いします」
俺は何処か晴れやかな気分で生徒指導室を後にした。
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