第21話 過ちを起こさないために

 『明日だけど、川崎駅まで迎えに行くね』


 土曜日を前にして瑞葉からメッセージが届いた。

 

 『別に行先さえ教えてくれれば、俺がそこまで行くけど?』


 目的地が都内なら川崎での待ち合わせは俺にとっては無駄足だ。

 逆に横浜方面だと瑞葉にとって無駄足になってしまう。

 瑞葉は菊名の辺りに住んでるから東急東横線でそのまま横浜まで出られるから、東海道線に乗り換えて川崎に出るのは手間でしかない。

 ちなみにうちの母は霞ヶ関勤めではあるが菊名在住で、東急東横線の通勤特急に乗って渋谷に出てから地下鉄だと言っていた。


 『目的地は横浜方面だから、怜斗の無駄足にはならないし良いでしょ?』

 『話したいこともあるし』


 立て続けに送られてくるメッセージ。

 意外と我の強い瑞葉は、なかなか折れてくれないので俺は仕方なく了承することにした。


 『わかった。それでいいよ』

 『ありがと。川崎に着く三十分くらい前になったら教えて』


 待ち合わせは俺次第らしい。

 つまりは好きな時間に来い、そういうことらしかった。

 午前中は、ダラダラ過ごして午後に行けばいいか。

 夕方だったら瑞葉も長引かせたくないだろうからすぐに終わるだろう。

 お互い変な気を起こすことはないとは思うが、念の為だ。


 『多分午後行く』


 時間はいつでもいい、瑞葉のその配慮に感謝しながらそう送った。

 

 ◆❖◇◇❖◆

 

 「元カノと会うのを見送るって、複雑な気分」

 「ただ会って、過去のことを謝って帰ってくるだけだけどな?」

 

 もはや恒例となったピロートークの時間、今日の話題は明日のことだった。

 

 「でももしかしたら向こうはその気じゃなかったりするかもよ?」

 「そんなことあると思うか?」

 「女の子の考えることなんてわかんないよ?」

 「美緒だって女子だろ?」

 「女子の私がよく分かんないって言ってるんだから男子の怜斗くんには難しいと思う」


 そう言うと向かい合わせになった俺の肩を美緒は押した。

 これは最近決まった二人だけにわかる合図。


 「疲れてないのか?」

 「怜斗くんも元気みたいだけど?」


 下腹部を這い回る美緒の指先。


 「私ね、怜斗くんが明日、枢木さんと間違いを犯さない方法を思いついたんだ」


 そのまま仰向けになった俺に美緒は馬乗りになった。

 

 「そんなこと起きないと思うけどな。ちなみにどういう方法なんだ?」


 美緒がろくでもないことを言いそうな気がしたが、なんとなく気になったので聞いてみる。

 すると枕元にあったをおもむろに掴んで美緒は言った。


 「せっかく買った0.01mmがこんなにあるんだから、わかるよね?」

 「精も根も尽き果てそうだな……」

 「出なくなるまで搾り取っちゃえばいいかなって」


 手じゃないサラサラとした何かが下腹部をくすぐった。

 やっぱり明日の瑞葉との予定は午後にせざるを得ないようだ。

 朝はゆっくり寝させて貰おう――――。

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