第20話 早見さんside

 ゴールデンウィークの狭間の登校日、私が登校すると友達から詰め寄られた。


 「ねぇ、胡桃くるみに聞いたんだけどさ、地下鉄の車両内で和泉くんに壁ドンされてたってマジ?」


 胡桃っていうのは中学校時代からの友人の名前で、ちょっとお喋りなのが難点だった。

 これはひょっとして広まっちゃってるやつかな?


 「多分、和泉くんにそんなつもりはなかったと思うよ?」

 「え、どういうこと?」

 「ほら、あの電車すごい満員だったから、和泉くんが私のスペース作るためにああしてくれたの」


 私もちょっとビックリしちゃったけど、多分和泉くんは無自覚なんだ。


 「何それ、めっちゃ行動がイケメンやん!」


 これで要らざる誤解は免れたかな?


 「でも多分だけど、たいして面識のない私にはやってくれないよね〜」

 

 ひょっとしてこれ、やっぱり誤解受けたまま?


 「どうだろうね……あはは……」


 まぁただのクラスメイトでしかない私に三日間もお菓子作りを教えてくれたんだから、それほど面識のない人にも優しくしてくれそうな気はする。


 「で、一緒にどっか行って何したの?」


 やっぱり突っ込まれるよね……。


 「えっと、洋菓子のお店を回ったかな?」

 「二人っきりでってそれもうカップルみたいやん」


 二人っきりってわけじゃないんだけど……でも和泉くんと美緒ちゃんの関係は多分伏せといた方がいいよね?

 それに……今まで私に浮いた話なんてなかったから、ちょっぴりいい関係を匂わせてみたいという好奇心すらある。

 危険だからやらないけれど。


 「そうかな?」

 「陽菜〜、頬緩んじゃってるよ?」


 嘘、いつの間に!?


 「で、ぶっちゃけどうよ?好きなん?」


 女子ってこういう話題のときは遠慮なくグイグイ来るんだよね……。


 「わかんない。でもいい人だよ。お菓子作りの次は勉強でも教えてもらおうかなって」


 一人暮らしのせいか、しっかりしてるし勉強も出来て面倒見もいい。

 例えば和泉くんみたいな人が旦那さんになったらさぞ円満な家庭を築けるんだろうなって思う。


 「へぇ〜、私も頼んでみよっかな」


 どこまでが本気か分からない表情で悠亜ゆあは言った。

 彼の知らないところで上がっていく彼の株。

 でも別に美緒ちゃんのことは心配にならない。

 この数日間一緒にいただけでも二人の繋がりが強いことはよくわかったから。

 特に美緒ちゃんから和泉くんへの想いが強い。

 よくは分からないけど、彼の知らないところで美緒ちゃんは和泉くんのことを知っている、そんな感じがするのだ。

 もしかしたら過去の二人に何かがあったのかもしれない。


 「いいんじゃない?多分嫌な顔せず教えてくれるよ」

 「取っちゃったら怒る?」

 「そう簡単に和泉くんは靡きそうにないから心配してない」


 頭が良くて性格もいいなら優良物件、まして一人暮らしなら何かとしやすいから付き合うにはもってこい。

 割とみんな打算的なところあるから、そういう眼鏡で見るのなら誰にとっても魅力的なのかもしれない。

 もちろんそれは私にとってもだ。

 もう少し私が打算的だったのなら和泉くんにアプローチするかもしれなかったけど、美緒ちゃんの恋路を邪魔するつもりはないし無自覚スケコマシの和泉くんのそばにいたら気を揉みそうだ。

 というわけで私は美緒ちゃんの恋路を応援しようと思った。

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