第19話 瑞葉からの誘い
その日は、俺の家に近い駅まで来たところでお開きになった。
早見さんの最寄りの駅も同じところだからそれが自然な流れだった。
『今日はありがとう!』
夕方、早見さんからメッセージが届く。
すごく丁寧な人だな、というのが第一印象だった。
友達とだったら、お開きになったタイミングで「またねー」とか適当に言って終わりだ。
『明日も頼めるかな?』
続けて送られて来るメッセージ。
明日の予定は――――カレンダー機能を確認するが特にはなかった。
『大丈夫だ』
俺がそう送り返すとスタンプが返ってきた。
やり取りを終えてスマホを手放そうとすると、再びメッセージが届く。
送ってきたのは瑞葉だった。
『ゴールデンウィーク、久しぶりに何処かに行かない?いろいろ話したいことあるし』
もう距離を置いた二人のトーク画面には、飾り気のない端的なメッセージしかない。
それより前のメッセージは端末を買い替えたから閲覧することは出来ない。
それだけの時間が距離を置いた俺達の間には流れていた。
『もう今更だろ。電話かトークアプリで十分じゃないか?』
距離を置いた二人、今になって会う必要も無いはずだ。
俺が地元から離れた高校を選んだ理由の一端は瑞葉にもある。
瑞葉が俺と離れて他の人に出会えるようにという考え、気を使うのに疲れて物理的に距離を置くことで接触を断ちたかった俺の思い。
一方的な盲目は相手にとっては毒にしかならないのだから。
『冷たくなったね。でもそれなら私も勘違いを起こすことは無いから……今度は幼馴染として会いたいかな』
一度別れた幼馴染の二人が幼馴染として出会う。
はたから見れば美談のそれは、しかし当の本人である俺達にとっては苦い記憶を呼び覚ますことなのだろう。
瑞葉が何を考えてそんなことをしようとするのか俺には分からなかった。
でも上手く言葉に出来なかったあの時の謝罪を、瑞葉を傷付けた過去の清算を、もしかしたら俺はするべき機会なのかもしれない。
既に互いに踏み出した新たな一歩をより深く確実なものにするための再開。
『時間と場所は?』
『今度の土曜でどうかな?それまでに場所は私が考えとくから』
『分かった』
俺の了承に既読がつくと、やり取りはそれで終わりだった。
「ふぅ……」
いつの間にか忘れていた息を俺は吐き出す。
無意識のうちに息が詰まってしまっていたいたらしかった。
「なんか難しい顔してたけど?」
俺の膝を占領していた美緒と目が合う。
「そうだったか……」
「どうしたの?」
「今度の土曜日、元カノに呼び出された」
俺と瑞葉との間に何があったのかは、既に美緒には話してあったから、隠すこともないだろうと俺は素直に言った。
すると、美緒の表情は曇る。
「行くの?」
そして何処か不安そうな眼差しで訊いてくるのだった。
仮にも俺が美緒と恋仲だったら、そんな顔をさせたことに申し訳なく思うのだろう。
「行きたいとは思わないが行くべきなんだろうな」
「どうして?」
「過去を清算するためにだ」
土曜日で全てが決着してくれるのならもう俺は何も気に病むことは無い。
どれほど楽になれるのか、そう思った。
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