第3話 寄り道
「一緒に帰らない?」
そう切り出してきたのは新妻さんだった。
「俺は構わないけど、寄り道して帰ることになるぞ?」
一日三食自炊の俺は、いつも月曜日の帰り道に近所のスーパーに寄って帰るのだ。
「どこに?」
「今週の分の食材買わないと行けないんだ。毎食自炊だからさ」
「それなら私も丁度いいかな」
ひょっとしたら、新妻さんも自炊してたりするんだろうか?
「新妻さんの得意料理って何?」
ちなみに今日お昼に見た時は、コンビニのパンだった。
「んー……」
考えているのか目を泳がせるような仕草をみせると
「強いて言うなら、麺類かな?手軽に作れるからね」
「なるほど……」
「そういう和泉くんはどうなの?」
「そうだなぁ……俺の場合は一般的な家庭料理くらいなら何でも作れるよ」
母親は霞ヶ関勤めで夜は遅く朝は早い。
父親はそんな母親とは上手くいかず俺が小学校に上がる頃には離婚していた。
学校が長期休みになっても日中母親がいることは少なく姉に料理を教わるうちに気付けば家庭料理に並ぶ大概の品目は作れるようになっていた。
「家庭的なんだね……?」
やや呆れ気味に新妻さんは言った。
「ほかの男子に比べたらそうかも」
そんなことを話しているうちに近所のスーパーに到着。
二人して思い思いの商品をそれぞれの買い物に入れていく。
そしてさぁこれからお会計、というところで声をかけられた。
「あら、和泉くんに新妻さん?」
呼ばれて振り向くとそこにいたのはクラスでも所謂一軍女子の
「あ、早見さん」
俺はそう言ったが新妻さんは黙っている。
「二人でお買い物?」
「そういう早見さんも?」
買い物カゴには、お惣菜がいくつか入っていた。
「あ〜、これは弟と妹が喜ぶから買ってるの」
見たところ油物ばっかりだ。
それを気にしてるのか早見さんは少し恥ずかしげにしている。
なんだかんだで揚げ物が好きなのだろう。
「和泉くんはバランスよく色々買ってるね……自炊とかしてるのかな?」
「一人暮らしだから色々必要なんだ」
「えっ、一人暮らし!?」
思いの外、早見さんは食いついて来た。
「そうだけど……?」
「そういうのって漫画とかアニメの世界だけかと思ってた……」
早見さんの視線は新妻さんの買い物カゴにも注がれる。
そして顔を引きつらせた。
「えっとこれは何かな……?」
それまで何も気にしなかったけど言われてみれば確かに異変が起きていた。
早見さんが顔を引きつらせた理由にも察しがつく。
「……カップ麺、パック飯、インスタント系食品だけど?」
僅かな沈黙の後、それが何か?と言いたげな顔で新妻さんは言った。
「その……体、壊さないようにね?」
苦笑いしながら一言そう言って、早見さんは弟や妹達が待ってるからと去って行った。
「いいこと思いついた」
早見さんの後ろ姿を見送りながらボソッと新妻さんは言った。
思えば新妻さんのその思いつきこそが俺達の奇妙な関係の始まりだったのかもしれない。
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