第4話 穴あきショーツと天然スケコマシ

 「ねぇ、今日の授業のお礼させてよ」


 アパートの階段を上りそれぞれの部屋へと別れる間際、新妻あづまさんはそう言った。


 「別に感謝される程のことじゃない」


 俺はすぐに誰かを吊るし上げようとするあの英語教師が嫌いなだけだ。


 「もう、そういうことじゃないんだよ。女の子が勇気を出してお礼をしたいって言ってるんだから素直に受け取るべきだよ?」


 どういうわけか新妻さんはむくれ顔になると鍵で玄関を開けるや否や俺の腕を引っ張った。

 そこまで言うのならと俺も新妻さんの言葉に甘えることにした。


 「お邪魔します」

 

 部屋の構造は全く俺の部屋と同じ。

 玄関から何となく部屋の全貌が見渡せた。


 「あはは……え〜っとこれは……」


 すっかり忘れてた、とばかりに玄関で俺の腕を引っ張ったまま新妻さんは固まった。


 「予想以上に……」


 散らかってるなぁという言葉は飲み込む。


 「そう、これは空き巣の仕業!」


 悩み抜いた末の苦し紛れの言い訳。


 「それは大変だ……」


 適当に話を合わせておく。

 窓ガラスも破られていないし玄関から誰かが不法侵入してきたわけでもないのだが。


 「大変です……後片付けが……」


 観念したのか恥ずかしそうにモジモジしながら新妻さんは言った。


 「俺で良かったら手伝うよ」


 女子の部屋にしては余りにも残念すぎる惨状だから……。


 「またお礼することが増えそうね」


 申し訳なさそうにする新妻さんと一緒に足の踏み場もないほどに散らかった部屋を片付けていく。

 ゴミの山を掻き分けていた手が何かを掴んだ。

 触り心地のいい生地の何か。

 その正体を確かめるために上に乗っかっているものを退けていく。

 やがてに辿り着いた。


 「何これ……」


 知ってるそれと余りにも形状が違いすぎて疑問が口をついてでる。

 拾い上げた黒い逆三角形の布切れには鋭い切れ込みが入っている。


 「あ〜あった!」


 どこかわざとらしい口調で新妻さんは近寄ってきた。


 「穴あきショーツだよ!いわゆる勝負下着的なやつ」


 無意識のうちにそれを履いた新妻さんを想像してしまう。

 なんというか……その……すごくえっちです。


 「あ、今さ、想像しちゃった?ついでにオープンブラもあるけど見とく?」


 つい今朝見たばかりの小悪魔的な表情を浮かべる新妻さん。


 「い、いや……」


 どう誤魔化したものかと迷いながら下着を適当にその辺へ突っ込む。


 「あ、ちょっ、元あった場所に戻さなくていいからっ!って……きゃぁっ!?」


 ドンガラガッシャーンと散らかった床につまずいた新妻さんがそのまま俺にのしかかるようにして二人ともども倒れた。


 「いってぇ……」


 ぶつけた所を擦りながら目を開けると、すぐ目の前には真っ赤な顔の新妻さん。


 「ほんっとにごめん!」


 いつもの黒縁メガネは転んだ拍子に外れてしまったのか、すまなそうに言う新妻さんは思ってた通り――――


 「眼鏡のない方が綺麗だ」

 「ふぇ……?綺麗?」


 ますます赤らみの増す新妻さん。

 それを見て俺は自分が何を口走ったかを悟った。


 「ごめん俺、思ったことすぐ言っちゃうタイプなんだ」

 「っ……このバカぁぁっ!無自覚天然スケコマシ!」


 どういうわけか新妻さんはご立腹だった。

 綺麗って褒め言葉じゃなかったのだろうか……?

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