第5話 お隣さんは色ボケ

 「ふぅ……片付け終わり!」


 初めてこの部屋を見たときが嘘のように綺麗になった。

 相変わらず眼鏡を外したままの新妻さんは、達成感いっぱいに言った。


 「お疲れさん」

 「今からお茶いれるから待ってて」


 それまで埋もれていた机に手を着くと新妻あづまさんは立ち上がる。

 やがて紅茶とお菓子をトレーに乗せてキッチンからやってきた。


 「いつの間にこんなの買ってたんだな」

 「レジに行く前にコソッとね?」


 そう言ってレーズンサンドをはむっとくわえた。

 なんだか小動物じみた挙動に思わず可愛いと思ってしまう。


 「どうしたの見つめちゃって」


 さすがに見つめすぎたのか新妻さんは訊いてきた。


 「い、いや……この紅茶美味しいな!」

 

 とりあえずそう誤魔化すと新妻さんはニヤリと怪しく微笑む。


 「このティーバッグ買って正解だったみたいね!このティーバッグ!」

 「お、そうだな」

 「他にもティーバッグはいっぱいあったんだけど、このティーバッグに目がいっちゃったの」

 

 なんだこのティーバッグしかない会話は……。


 「でね、今日私が履いてるのは、Tバックなんだよ?ほら!」


 新妻さんはルームウェアのワンピースの裾に手をかけると捲り上げようとする。

 そういうオチだったのか!


 「ストォォォォップ!」


 慌てて飛びかかりその手を抑える。


 「きゃっ、積極的♡」

 「こんの色ボケがぁぁぁっ!」


 机の脚で強引にワンピースの裾を抑え新妻さんから離れる。

 しばらくそのままでいた新妻さんだったが


 「ほ、放置プレイ?」


 腕で体を覆うようにして悶えたのだった。


 「はぁ……会ったばかりの人間にそんな積極的に接していいのか?」


 新妻さんが傷つかないよう破廉恥な、という言葉は使わない。


 「初めて?ほんとにそう?」


 新妻さんは、朝も今も過去に俺達に面識があったそんな言い方をする。


 「俺の記憶にはないけどな」


 小さい頃、仲良くしていた幼馴染が二人いてその一人は名前が新妻さんと同じ美緒みおって言ったが、新妻さんとは似ても似つかない程に奥手だった。

 まかり間違っても新妻さんとが一緒とは思えない。


 「ふーん、そういうこと言っちゃうんだ?」

 「だったら教えてくれよ」

 「ん〜、和泉くんが気づくまでは言えないかなぁ」


 相変わらずはっきりしない物言いだった。

 単に新妻さんが変態って可能性も否定出来ないし。


 「というわけで、思い出すためにもう一変見とく?」

 「見て何がわかるんだ?」


 裾を押さえつける。


 「見たくないなら、夕飯の支度お願い!」

 「どうしてそうなる?」

 「久しぶりに人が作ったご飯食べたいなぁ〜って!このままじゃ私、体壊しちゃうかもしれないよ?」


 そう言えば片付けのとき、開けてないカップラーメンがいっぱい出てきたっけ。

 ったく……ほんとに世話のやけるお隣さんだ、つくづくそう思った。


 「ダメかな?」


 計算し尽くした上目遣いで俺を見る新妻さん。

 簡単にその手には乗らな―――――


 「どうせ一人分も二人分も作る手間は変わらないからいいよ」


 あれ……俺、簡単に乗っちゃってないか?

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