第2話 怜斗と和泉と思い出と
懐かしい夢を見た。
小学生の頃の思い出、私と幼馴染二人とで公園に出かけた日のこと。
急にお腹が痛くなって私は、二人のもとを離れざるを得なくなった。
しばらくして二人の元へと戻るとそこに二人はいなかった。
慌てて視線を周囲に走らせると公園で一番大きな木の下に二人はいた。
「戻ったよ」って声をかけようとして近づいた私は、しかし喉から声が出せなかった。
「――――あたしさ、
俯きがちに怜斗くんに向かって言ったのは、幼馴染であり親友の
「だからさ、付き合ってよ」
今思えば、小学生が付き合ったところで何が出来るの?と思わないでもないが当時の私からすればそれは衝撃的だった。
裏切られた気さえした。
それまで親友だと思ってた瑞葉は、私に何も相談せずに怜斗くんに告白しているのだから。
瑞葉と一緒で私は怜斗くんのことが好きだった。
瑞葉が怜斗のことをどういう眼差しで見ているかも気づいていた。
でも自分からその気持ちを伝えることが出来るような積極性は持ち合わせていなくて、「答えないで」と祈るしか無かった。
聞きたくない、そう思った怜斗くんの返事をしかし私は耳をすまして聞いていた。
「うん、わかった」
視界が暗転していく、そんな感覚に陥ったのは今でもよく覚えている。
その後、そっと大木のそばを離れた私の元に戻ってきた二人はどこかバツの悪そうな顔をして白々しかった。
小学校を卒業して引っ越した私は変わろうとした。
髪型も性格も付き合う友達さえも変えて少しでも明るく振舞おうとした。
そして今に至る。
もうあの頃には戻れないくらいに汚れてしまって、普通じゃ満たされない性癖まで出来てしまって……。
でも怜斗くん、今の私はあの頃の私より魅力的になれたかな?
「
どうやら後ろの方の席だったけど居眠りがバレてしまったらしい。
英語担当の教師が神経質そうな銀縁眼鏡越しに私を見た。
「授業聞いてたなら分かりますよね?」
郷に入っては郷に従えという日本文の英訳をしないといけないらしい。
分かりません……その言葉が喉から出かかった。
その時だった。
通路を挟んで私の隣に座っていた和泉くんが立ち上がった。
そして大きめの付箋を丸めたものを歩きながら私の机の上へと置いていく。
和泉くんはそのまま教師の元へと向かうと小声で何かを伝えた。
「行ってきなさい」
教室を出ていく和泉くんを視界の端に、私は彼の置いていった便箋を開く。
『When in Rome,do as the Romans do.』
ありがとう和泉くん……。
「で、英訳出来ますか?」
英語教師は再び私に向き直る。
「はい、When in Rome,do as the Romans do.」
そう答えると教師は面白くなさそうな表情を浮かべた。
「英訳は出来るようですね。次からはしっかり聞いていなさい」
私はまた彼のことが好きになってしまいそうだった。
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