第32話 独占欲
「ねぇ怜斗くん、長い髪の毛ついてるよ?」
「その手には乗らんぞ?」
屋上から戻って席につくと美緒は俺の服を見つめて言った。
なんという古典的な手口だ、そう思うと同時に無性に自分の服を確認したくなった。
「ホントなんだけどなぁ?」
え……マジか。
美緒は、俺の肩に手を伸ばすと髪の毛を摘んだ。
「これはなぁに?誰の?」
「さ、さぁな……」
さっき屋上で何が起きたかは、さすがに美緒には言えない。
何故なら――――――
「ご、ごめん、私なんかに抱き締められて……その……迷惑だよね?」
不安そうで今にも消え入りそうな早見さんの声。
「嫌いだったら振り払ってるから安心しろ」
俺は嫌いな奴相手に慰めたり心配できたりするほどのお人好しじゃない。
「なら、良かったのかな……?でも、恥ずかしいから今のは誰にも言わないで」
「分かった」
というわけなのだ。
俺が言えずにいると美緒は不穏な笑みを浮かべた。
「むふふふふふふふふふふふ」
「どうした?」
「陽菜ちゃんも怜斗くんの良さに気付いちゃったかなって」
わざと遅れて教室に入ってきた早見さんを美緒は見つめた。
「ヒェッ!?」
早見さんは美緒の視線に気づくと奇声をあげて逃げるように通り過ぎていった。
「まぁ、聞かないでいてあげる」
バレてるような気はしても、一応の訂正をした。
「何も無かったけどな」
「何があったって私は構わないけど?」
自信ありげな表情で美緒は俺を見た。
何故?と訊こうものなら、俺にやましいことがあるという証拠になりかねない。
気になるところだが……やめておこう。
そんなことを考えてると美緒は言った。
「色々考えてるみたいだから教えてあげる。怜斗くんは私の元から離れられない、その自信が私にはあるから。なぜなら―――――今はこれ以上は止めておくべきね」
肝心な所を美緒は言ってくれなかったが、言われてみればなるほどその通りとも思えた。
今更、瑞葉との復縁なんて考えられないし、早見さんの抱えていることに深入りするつもりもない。
今俺が一番心を許しているのは美緒だから彼女に拒否されるまでは、誰にも縛られないこの関係を続けていたい。
「ちょっとごめんね?」
美緒は俺に顔を寄せた。
クラスの一軍じゃない俺たちの行動を意識して視界に収める人がいないことをいいことに美緒はやりたい放題。
俺の服に鼻を近づけた。
「お前、何をして―――――」
美緒の瞳が妖しく光る。
「やっぱり、怜斗くんから他の女の子の匂いがするのは我慢できないかな。もしかしてだけど……陽菜ちゃんを抱き締めたりした?」
最後は周りに配慮してか小声で美緒は言った。
やっぱり美緒には敵わないか。
だが早見さんは誰にも言わないで、そう言っていた。
「ノーコメントだ」
「ふーん……優しいのは怜斗くんの良い所。でもね、それをあんまり他の人に向けて欲しくないかもって今思った」
剥き出しの独占欲が俺を襲う。
「今夜は覚悟してね?」
爛々とした目で美緒は俺を見た。
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