第31話 メロンパンと懊悩(2)

 快活そうな早見さんが、今日は沈痛な面持ちだった。

 今朝のやり取りも、早見さんを元気づけるためのものだったと後から美緒が言っていた。

 もちろん口封じも兼ねてのことらしかったが……。

 そういう理由わけで、もしかしたら一人になりたいのかもしれないが一人で抱え込むのは良くないだろうと思って俺は早見さんの後を追いかけることにした。

 

 「――――その代わりに良かったら話を聞かせてくれないか?」


 メロンパンの代金のかわりにっていう取って付けたような理由。

 多分こうでもしないと早見さんは話してくれないだろうから。


 「うん、いいよ」


 俺の隣で早見さんは何処か遠くを見つめて承諾してくれた。


 「あのね、昨日の二人見てたらさ、思い出したくもない過去を思い出しちゃって」


 早見さんの口から出た言葉は思いもしないものだった。


 「それは……悪かった」

 

 そう謝ると早見さんは首を横に振った。


 「そうじゃないの、悪いのは二人じゃない。私ね、過去に親友と思ってた幼馴染に裏切られたことがあったんだよね」


 俺はその言葉にハッとさせられた。

 もしかして幼馴染だった美緒もこういう気持ちをいだいてたんじゃないかって。


 「私ともう一人の女子と男子。今思えば最初から三角関係だったのかな」


 届くはずもない過去への後悔は、ただ風にちぎれて行く。

 続く早見さんの独白――――。


 「私が中学二年生のときだったかな、幼馴染の女子に打ち明けたの。その男の子が好きだって。そしたら彼女は、応援してるよって言ってくれた。でも肝心の告白は恥ずかしくってなかなか出来なかった。でもね、しばらくして私にとって衝撃的な出来事があったの。なんだと思う?」


 潤んだ瞳で早見さんは俺を見つめた。

 きっとその答えが、幼馴染だった美緒から見た俺と瑞葉の姿なんだってことは何となく想像が出来た。


 「二人が既に出来てたっところか?」


 だから早見さんの質問への答えは直ぐに出た。

 

 「そうだよ、その通り。ここまでならまだ私も受け入れることが出来たかもしれなかったんだ。だってモタモタしてた私にも非があるから」

 「そこまでじゃなかったって……ことか?」


 早見さんにとって最も辛い確信を突くような問い。

 躊躇いつつも俺は尋ねた。


 「そう、二人は私のことを悪し様に言っていた。二人は私に出来上がった関係を隠して優しくしてたの。笑っちゃうでしょ?全部、私の一人芝居だったんだって」


 自虐的な笑みを浮かべた早見さんは、涙がこぼれないようにするためなのか上を見つめた。


 「よく話してくれたな。そんなの涙で流して忘れちまえ」


 きっと幼馴染だった美緒をそんな気持ちにさせてしまった俺にこんな言葉を言う権利はないのだろう。

 でも、だからこそ、そんな思いで苦しむ人を見たくない、そう思った。

 俺は早見さんの幼馴染の二人同様、かなり身勝手な人間だ。


 「私の言えた義理じゃないけど、和泉くんも酷い顔してるよ?今にも崩れそう」


 無理して泣くのを堪える、そんな表情をした早見さんの顔が近付く。


 「ねぇ和泉くん……こんな過去、忘れさせてよ」


 そう耳元で言った早見さんは、俺を抱きしめた。

 本当はその腕を引き剥がすべき、俺なんかじゃ早見さんの思いの丈を吐露する器に相応しくない。

 そう思ったが、壊れそうな早見さんの表情を思い出した俺にはその腕を引き剥がすことも出来ず、さりとて抱き返すことも出来なかった。


†謝辞御礼†


 昨日投稿した第30話を持ちまして、3万PVを突破しました🎉

 ありがとうございます‼️

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