第33話 経験値マウント

 「わ、私も一緒に帰っていいかな!?」


 胸元に握り拳をあてて、意気込んだように早見さんが俺と美緒の間に割り込んだ。

 美緒は一瞬、表情を曇らせたが直ぐにその表情を消した。

 かわりに俺との距離を詰めた。


 「友達なんだしわざわざ訊かなくてもいいよ」


 一瞬とはいえ顔を顰めのにも関わらず笑顔で接しているのだから、やっぱり女子は理解出来ない、そう思った。


 「ありがとう!本当は邪魔かなって思ったんだけど……二人は付き合ってないんだよね?」


 早見さんは美緒とは反対の左隣から身を乗り出してきた。


 「付き合ってはないけど……突かれてはいるね」


 俺を見つめてそんなことをのたまう美緒。


 「は、破廉恥な!!」

 「今更じゃない?覗き魔さん」

 「の、のの、覗き魔!?」


 不名誉な渾名あだなに早見さんは口をアワアワと動かしている。

 そう言えば早見さんは図書室でのそれを見てたんだったか……。


 「で、でもあんな所でするのは良くないと思うの!誰かに見つかったらタダじゃ済まないから!」

 

 早見さんは美緒に至極もっともな苦言を呈した。


 「正直なところ、見ててどうだった?」


 美緒はニヤニヤした。


 「その……凄く大きかったです……」


 何で丁寧語になってんだよ……。


 「おい、やめてくれ」


 美緒は見られて喜ぶ変態さんかもしれないが俺は違う。

 残念ながらそんなアブノーマルな性癖はしていない。

 むしろ見られたら萎縮ずらしそうだ。


 「まぁ陽菜ちゃんは男を知らないもんね?」


 勝ったぜ!みたいな顔で美緒はドヤっている。

 

 「え……美緒ちゃんはその……他の男の人のも知ってるの?」

 「百戦錬磨とまではイかないけどね?でも怜斗くん、自信もっていいよ?おっきいから!」

 

 美緒は満面の笑みで爆弾を投下していく。

 というか行為のときに手慣れた感じだったのは、やっぱりそういうことだったか……。

 どういうわけか、初めてじゃないのが残念だという気持ちが俺の中に芽生えた。


 「褒められてるのか……?」


 褒められたら嬉しいはずなのにこんなにも下世話な話では、褒められても不思議と何も嬉しくなかった。


 「そうなんだ……そうなにも二人は……」


 美緒の言葉にどういうわけか早見さんは沈みこんだような表情をうかべた。

 そして重い空気が漂う。

 流石の美緒も、マズった!というような顔をした。

 そして愛想笑いを貼り付けると、重たい空気には似つかわしくない声で切り出した。


 「そう言えばお昼なんだけど、二人は何を話していたの?」


 早見さんはハッとしたような表情を浮かべると頬を両の手でペチっと叩いた。


 「え?」

 「えっ?」


 予想外の行動に俺と美緒は二人揃って困惑した。


 「ううん、何でもないよ?自分に喝を入れただけ!」


 いつもの快活そうな表情に戻った早見さんは、


 「えっと、お昼は私の過去の話をしてたんだよ」

 「それ、気になるけど訊かない方が良さげ?」


 さっきのこともあって美緒は慎重になっている。


 「平気だよ。和泉くんに話したら随分と楽になっちゃったから!」


 無邪気そうに笑う早見さん。


 「なら今夜、女子トークしちゃおっか!」


 美緒が罪滅ぼしなのか早見さんを誘った。

 どうやら俺は、今夜の美緒のお仕置からは逃れられるみたいだな……。

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