第34話 重なる境遇

 「もしもーし、聞こえる?」

 

 昼間の謝罪も兼ねて私の方から電話をした。

 というのも、昼間の私は陽菜ちゃんの想いに気づいていたが故に、私と怜斗くんの関係の濃さをひけらかすようなアピールをしてしまった。

 私が私の思い描く怜斗くんとの関係を守るために、脅威になり得る存在は詰んでおきたいという自己中心的な考えによる行動は、きっと陽菜ちゃんを不快にしてしまっただろう。


 『聞こえてるよ』


 陽菜ちゃんの声が帰ってきた。


 「良かった。出てくれないかもって思ってたから」

 『大丈夫だよ』

 「昼間は、ごめんね?早見さんの気持ちに気付いてたから、取られないようにって」


 私は素直に謝った。

 勿論、ただ謝るだけじゃなくトラップを仕掛けておいた。

 「気持ちに気付いた」というのは根拠の無い私の直感。

 今までの陽菜ちゃんの言動から私がそうなのでは?と推察したに過ぎない。

 だからこそ敢えて「気持ちに気付いた」という言葉を織り交ぜて、陽菜ちゃんがどういう反応を見せるかで、それが私の勘違いなのか或いはどの程度強い気持ちなのかを推し量ろうというのが狙い。


 『そうだよね、バレてるよね……』


 私の前にいたらきっと陽菜ちゃんは所在無さげにしているのだろう。


 「同じ人を好きになるなんて、やっぱり仲がいいのかもね、私達」

 『怒ったりしないの……?』


 遠慮がちな陽菜ちゃんの声。

 怒る理由なんてないし怒る権利もない。


 「怜斗くんが私の彼氏になっているにも関わらず、寝取るような真似をしたら怒るかもしれないけど、まだ怜斗くんとはそんな関係じゃないから怒る理由なんてないよ」

 『良かった……でも、ちょっと優しくされたぐらいでってチョロいよね……』


 自嘲気味に笑う陽菜ちゃん。

 

 「私もそんなもんだよ」


 幼稚園にあった放課後児童クラブで私と怜斗くんは出会った。

 今思えば、年齢は同じはずだったのにちょっと大人びていて近寄り難かった気もするけれど、いつも一人だった私を遊びに誘ってくれて面倒を見てくれた。

 陽菜ちゃんが怜斗くんに優しくして貰ったように、私も怜斗くんに優しくされて好きになってしまったのだ。

 ある日、私は勇気を出して


 「怜斗くん、好き!」


 そう言ったことがあった。

 でも怜斗くんはニコッと笑って


 「なら、これからも友達でいて」


 と返して来たのだ。

 鈍感なのか彼なりの対応なのか、おそらく前者なのだろう。

 その日を境に私はいつか怜斗くんを振り向かせようと思ったことは未だに覚えている。

 結局、瑞葉に取られるまで私はアクションを起こす勇気は出なかったのだけど。


 『やっぱり、皆もそんなものなのかな?』


 お世辞にも良い理由とは言えない恋愛関係を私はいくつも知っている。

 だからこそ真っ直ぐな陽菜ちゃんには、そんなこととは無縁でいて欲しいと思った。


 「他人の恋愛感情なんて私には分からない」


 分かりきったことだけど答えは濁した。


 「それはそうと、お昼の話聞かせてよ」


 この辺りは、あんまり深堀りしてもいい気はしないから話を私は切り替えた。


 『いいよ、帰りに約束したしね』


 陽菜ちゃんは、声のトーンを少し落としつつ語り出した。

 それは私の体験なんてものよりも、心に大きなダメージを残すだろう出来事だった。

 そして何より私と似た境遇だった。

 せめて私が辛い思いをした陽菜ちゃんの理解者足るよう私は、過去の記憶を話したのだった。

 私の想いを知っていたはずの親友瑞葉が何の相談もなく怜斗くんを奪っていった話を―――――。

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