第35話 おそよう寝坊助さん

 ピーンポーン、と間の抜けた音が響く。

 そう言えば昨日言ってたな……早見さんとテスト勉強一緒にやるんだっけか?


 「おい起きろ」


 隣で寝てた美緒の体を揺する。


 「むにゃむにゃ……もっと…触ってぇ」


 あ、ダメだコイツ……。

 ブランケットをかけて放って置くことにした。


 「どうぞ〜」

 「お邪魔します……って和泉くん!?」


 早見さんは驚いたような顔で俺を見た。


 「部屋主に変わって開けた」

 「二人は同棲してたんだったね。そう言えば美緒ちゃんは?」

 

 俺は無言でベッドを指さした。

 ブランケットにくるまって丸くなってる美緒の姿はさしずめ猫みたいだ。


 「その……昨日も二人はしたの?」


 顔を赤らめて指を絡めてもじもじしながら早見さんは訊いてきた。


 「昨日はしてないな」


 帰ったら覚悟しててね、とか言っていた美緒は自分が女の子の日が近いことを忘れていたらしかった。


 「そ、そうなんだ。てっきり毎晩……その、ね?」

 「美緒だって女の子だから出来ない日もあるしそういう気分にならないときもあるだろ」

 

 そう言うと早見さんは、美緒の身体がどういう時期を迎えてるかを理解したらしかった。


 「そうだよね……。あのさ、ちなみになんだけど和泉くんはシたかった……?」


 茹でタコもかくやという程に顔を赤らめながら俺を見つめる早見さん。

 やけに今日は、その手の話題に積極的だな……。


 「どうだろうな……。依存してるわけじゃないから、問題ないとは思うが……」


 正直自分でもよく分からない。


 「今日は勉強しに来たんだよな?この話はこの辺りにしといて取り掛かろうぜ」


 自分のことを赤裸々に誰かに話そうという気は無いので話を逸らした。

 ちょっと強引過ぎたか……?

 

 「そ、そうだね!」


 早見さんがリビングルームのローテーブルのそばに座った。

 それを尻目に俺は適当な栄養食品を口にする。

 ただでさえ寝起きで乾いていた口の中の水分が全部持っていかれて、不快感でいっぱいになった。

 起き抜けに食うもんじゃないな。

 例によって午前十時の起床、早見さんを待たせるわけにはいかずお茶で流し込むと俺も座った。


 「分からないところがあったら聞いてくれ。もっとも早見さんは美緒に勉強教えに来てくれたんだと思うが……」


 早見さんの学力がどの程度のものかは知らないが、あんまり真面目に勉強していない美緒より高いことは間違いないだろう。


 「美緒ちゃん大丈夫かな……」


 早見さんは苦笑いを浮かべながらペンを手に取りノートに走らせ始めた。


 ◆❖◇◇❖◆


 「ん〜、お腹空いた」


 美緒の起き抜け第一声はそれだった。


 「おはよ、美緒ちゃん」


 早見さんが勉強の手を止め、美緒に声をかける。


 「にゅえ?」


 奇妙な声を上げつつ美緒は早見さんと枕元の時計との間で視線を往復させた。


 「秒針動いてるし……電波も正常……うえぇぇぇぇッ!?」


 ようやく事態に気づいたらしかった。


 「おそよう、寝坊助さん」


 ムクっと起き上がると美緒は俺の背中にもたれかかった。

 

 「何してんだ?」

 「怜斗くん成分の補給だけど?」


 早見さんの手前、ハグもしないしキスもしない。

 それくらいの配慮は出来るらしかった。

 

 「美緒ちゃん、勉強ピンチだったよね!?」


 そんな美緒に向かって早見さんは冷たい声で言った。

 

 「もうちょっとで補給終わるから」


 俺の首筋を指でなぞりつつ美緒は勉強するつもりは無いのか俺に全体重を預けた。

 何気に重い……。


 「いいから離れなさいっ!」


 早見さんは見るに見兼ねたのか、ブランケットをたたみ、俺の背中と美緒との間に割って入ると強引に美緒を引き離した。


 「そんなぁ……後生だからもうちょっとだけ!」


 駄々っ子のようにジタバタするも


 「後生も畜生もないよ!」


 早見さんは、キッパリ。

 美緒は渋々勉強に取り掛かるのだった。

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