第36話 久しぶりのメッセージ

 テストが終わった水曜日、久しぶりにある人物からメッセージが届いた。


 「今更ね」


 無視したい気持ちと見たい気持ちが混濁としてどうするべきか分からなくなった。

 怜斗くんは少し前に会いに行っていたけれど、私にまで会う必要はあるの……?

 私から怜斗くんを奪っておいて……。

 

 「ねぇ、怜斗くん」


 もう寝てるかな……?

 おやすみと言ったのは数十分も前の話、起きてないだろうとは思いつつ私は好きな人の名前を呼ぶ。


 「……どうした?」

 

 怜斗くんは眠そうな声で私の呼び掛けに答える。

 私はそんな彼の背中にそっと抱きついた。

 女性にはないゴツゴツとした感じ。

 部活こそ帰宅部なのに少し引き締まった怜斗くんの体は暖かい。


 「用がないなら寝るぞ」


 テストで張りつめていた集中力がテストの終了と共に途切れたのか、怜斗くんは疲れているらしかった。

 

 「起こしちゃってごめんね」


 瑞葉からメッセージが届いたの――――その言葉は決して言わない。

 いっそ話してしまえば楽になるかもしれない、そう思った。

 でもそれじゃあ私の目的は果たせない。

 私が幼馴染の美緒だってことがバレてしまう。

 それは怜斗くんには自力で気付いて欲しいことなので私から口にするわけにはいかない。


 「おやすみ」

 

 怜斗くんの声は帰ってこない。

 既に意識を睡魔に委ねていたらしかった。

 

 トークアプリの画面に目を落として私はスマホのキーボードに指を走らせる。

 

 『わかった』


 混濁とした私の気持ちが導き出した回答。

 心が拒絶しても返すべきだと判断した脳。


 「はぁ……」


 その乖離に、ものの数分で疲れた私は深い溜息を吐いた。

 もしかしたら怜斗くんも、瑞葉に会いに行ったときはこんな気持ちだったのかもしれない。

 きっと怜斗くんは、元カノだからといって邪険にはしないだろう。

 好きな人を取られた私と、取った瑞葉。

 別れを切り出した怜斗くんと拒否してまで関係の継続を望んだ瑞葉。

 どっちの再会がより辛いのだろうか。

 怜斗くんは優しいから、気にしないフリなんて出来ない。

 少なからず瑞葉を傷付けたのでは?と気に病んでいたはず。

 

 「でも私は違う」


 私は怜斗くんほど優しくはない。

 もう瑞葉は親友でもなければ恋敵でもない。

 気にすることなど何も無い。

 いや、あんな奴にかけてやる気など私は持ち合わせていない。

 

 『土曜日でいいかな?私がそっちに行くね』


 届いたメッセージ。

 でも私は、瑞葉を私と怜斗くんとの生活圏にすら入れる気は無い。

 近づいて来ないで、それが私から瑞葉へ送るメッセージの本意。

 瑞葉が気づいてくれるては到底思えないけれど。


 『私がそっちに行くよ。どこで待ち合わせ?』


 怜斗くんに近づかないで、そうキッパリと言ってやるつもりで私はキーボードにそうメッセージを打ち込むのだった。

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