第48話 協力者

 「二人してため息しちゃってどしたん?」


 話題が話題ゆえに沈みこんだ空気を払拭するような声が響いた。

 声の方を振り向くと早見さんと仲の良い生駒さんがいた。


 「悠亜かー、びっくりしちゃったじゃん!」

 「ちょっと残念そうに言うなし!」


 場違いと思えるほどに明るい笑顔を浮かべた悠亜さんが俺と早見さんとの間に割って入った。


 「屋上行ってくるって言うから怪しいと思って来たんだよね、そしたら和泉くんとしっぽり!」

 「し、しっぽりはまだして無いから!!」

 「まだ……?」

 「な、なんでもないから!い、今のは忘れて!」


 生駒さんが喋り出すと早見さんはたじたじになっていた。


 「れ、怜斗くんもだよ!?」


 ぐわっと早見さんに睨まれた。


 「最初から聞いてないから安心しろ」


 内容は全部筒抜けだったが、ここは知らないフリをするっていうのが大人の対応だろう。


 「で、二人は何の話してたの?明るい話じゃないってのは何となくわかったけど」


 生駒さんは俺と早見さんとを交互に見つめた。


 「話していいかな……?」


 早見さんは俺の顔を不安そうな表情で覗き込んだ。

 今は一人でも真実を知った上で協力してくれる人間が必要なときだ。

 早見さんが生駒さんの人柄を保証してくれると言うのなら話してしまっても問題は無いだろう。


 「ちょっと派手な見た目だけど、悠亜の口は硬いよ!」


 艶っぽい唇に人差し指を押し当てながら生駒さんは言った。

 本人の手前、本当なのか?と口には出さず目線で早見さんに訊いた。

 すると早見さんは頷く。


 「話してやってくれ」


 俺の口から出た言葉じゃ客観性を欠くし、言ってくれるというのなら早見さんに頼むべきだろう。


 「実はね――――」


 早見さんは事のあらましを掻い摘んで生駒さんに伝えた。


 「許せない。今から江尻んとこ殴り込みに行っちゃう?」


 話を聞いた生駒さんは、ちょっとそこまで行ってくる、みたいなノリでサラッととんでもないことを言った。


 「美緒のために怒ってくれてありがとう。出来ればこの件で協力してくれないか?」


 きっと今の美緒には親身になって寄り添ってくれる人が一人でも多く必要だ。

 それに体育祭で生駒さんは美緒と二人三脚を共にしていた。

 きっと他のクラスメイトよりは美緒のことを知っているだろうし、同情してくれるだろう。

 

 「わかった!私に出来ることがあれば何でも言って!可能な限り協力するから!」


 生駒さんは拳を握りながらそう答えてくれた。

 チラリと早見さんの方を見ると、「ね?言ったでしょ?」と言いたげだった。


 「助かる。なら手始めに―――――」


 噂には噂で対抗する。

 江尻さんが誰かの口車に乗せられてしまった被害者の可能性も考慮して、極度に叩くようなことは避けつつ、俺は生駒さんに渡りに船とばかりに頼み込むのだった。


 「江尻さんの流している噂は名誉毀損なんじゃないかって話をそれとなく流してみてくれないかな?」


 どれほどの効果があるかは分からないが、それはこれから様子見しつつ変えていくしかないのだろう。

 

 「わかった!」


 生駒さんは固く頷いてくれたのだった。

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