第47話 下り坂(2)

 「美緒の噂を流さないように直談判しに行くってのは多分、逆効果だよな……」


 相手は態度をより意固地なものにしかねない。

 となれば噂を止めるのは難しいだろう。

 ならば別の噂で相殺するか……?

 だが、既に浸透しつつある噂を相殺するなど並大抵のことじゃない。

 一刻も早くどうにかしなくては、と焦るばかりで思考は纏まらず何ひとつとして具体案が浮かんでこない。


 「八方塞がりだね……」


 早見さんは空を見上げた。


 「でもね、こうも思うの」


 視線を俺に向けて早見さんは真面目な表情になった。


 「誰かが美緒ちゃんと怜斗くんの仲を引き裂こうとしてるんじゃないかなってね」

 「なんでそうなるんだ?」


 過程をすっ飛ばして言われても、納得することは出来ない。


 「噂を流すよね?そうすると皆が美緒ちゃんを避けるようになって、怜斗くんも美緒ちゃんの傍に居ずらくなって離れてしまう」


 早見さんがそこまで言ったところで俺は、ようやく早見さんが何を危惧しているのかに察しがついた。


 「不自然でない自然な別離を望んでいるということか?もっとも付き合ってるわけじゃないから俺が美緒の近くにいることがのぞましくないということになるのか……」


 だったらこんな回りくどいことせずに直接言いに来ればいいのにな。

 

 「考えられる可能性は他にもあるよ。さっきのは噂を流しているのが男の場合だよね?だからその逆で、美緒ちゃんを怜斗くんの傍に近づけたくないとか……」


 俺は別に容姿に自信があるわけでもないし性格も至って普通だ。

 後者の線はまずもってありえないと思った。


 「今、それは無いって思ったでしょ?」


 どうやら俺の考えは早見さんには見透かされてるらしかった。


 「そんなことないんだよ?ここにも惹かれてる人はゴニョゴニョ……」


 そんなことないんだよ?から先は小さくて聞き取れなかったが、これはきっと励ましてくれているんだろう。


 「そうか、ありがとな」

 

 礼を伝えると早見さんは驚いたような声を上げた。


 「ふぇっ!?今の聞こえてた……?」


 ボンッと音が聞こえそうかほどに赤くなって、気まずそうな顔で目を逸らした。


 「いや、前半部分しか聞こえなかった」

 「よかった……」


 早見さんはホッと胸を撫で下ろした。


 「でもこんなことしてられる余裕は無いんだよね……」


 確かにそうだな……。

 美緒が居ずらくなって学校に来なくなってしまったことが、さらに悪影響を及ぼしていた。

 実質的な肯定だと捉えられてしまっているのだ。


 「家でなら俺や早見さんだけでも出来ることはあるだろうが、学校で何か行動を起こすとなると……協力者が必要だよな」

 

 俺にはそんな気の利く友人はいないし、加えて事情が事情ゆえに口の堅い協力者でなければならないという条件付き。


 「「はぁ……」」

 

 二人して零れたのは重いため息。


 「二人してため息しちゃってどしたん?」


 だが、そんなため息は聞き覚えのある声によって何処かへと吹き飛ばされたのだった――――。

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