第7話 溶け合う二人

 「お風呂出たよ」


 そんな声に俺は起こされた。


 「あぁ……ありがとう……って…うえっ!?」


 目の前の光景は、あまりにも居眠りから覚めた俺には刺激的過ぎた。


 「エプロンよりも似合うでしょ?」

 「……」


 新妻さんは俺の前で纏っていたバスタオルを払った。

 床にバスタオルが落ちるとそこには、穴あきショーツにオープンブラの新妻さんがいた。

 大事なところを隠す気のない下着姿に情欲をかきたてられる。

 均整のとれたプロポーションは男としての本能をくすぐる。


 「それ勝負下着じゃなかったか?」

 「今がその勝負時かなって」

 「お、俺は帰る!」


 理性が溶けてなくなってしまう前にこの部屋を出よう。

 このままだと超えちゃいけない一線を簡単に超えてしまいそうだ。

 俺は踵を返すと新妻さんに背を向けた。


 「待って」


 帰ろうとする俺を新妻さんは後ろから優しく抱き締めた。


 「俺を帰らせてくれ」

 

 そう言うと後ろで新妻さんがふるふると首を振ったのが背中越しにわかった。


 「ダメ、私はこのときをずっと待ってたから」

 

 柔らかい二つの果実が背中で揺れる。


 「なら俺はどうすれば……?」

 「ふふ……随分と間抜けなことを訊くのね」

 「男女が同じ屋根の下、まして女の方は用意が出来ている。やることは決まってるんじゃないの?」

 

 据え膳食わぬは男の恥って言葉ぐらいは俺も知っている。

 

 「新妻さんはそれで後悔しないのか?」  

 「後悔?私はしないけど?」

 「そんなもんなのか……?」


 もっと自分を大切にしたらどうなんだ?

 

 「誰にだって体を許すわけじゃないよ?和泉くんだからだよ」


 新妻さんに俺は幼馴染の美緒を重ねた。

 思い出すのは美緒と瑞葉と俺の三人が仲良くしていた頃の記憶。

 美緒と瑞葉、魅力的な二人の幼馴染と結ばれるなどというありえない未来を子供心に夢見ていた。

 どちらかと言えば、ちょっと奥手な美緒のことが気になっていた俺はしかし――――


  「――――あたしさ、怜斗れいとのこと好きかも」


 瑞葉の告白に舞い上がって、そして受け入れた。

 今思えば優柔不断だった。

 その日から美緒との関係はギクシャクしたものになっていったし中学生になった頃には美緒は俺の傍にはいなかった。


 「俺さ、多分だけど新妻さんを新妻さんとして抱けない」

 「それってどういう……?」

 

 これで少しは思いとどまってくれたらいいな、という期待とともに俺は昔のことを少しだけ話すことにした。


 「俺にはさ分不相応の可愛い幼馴染が二人いたんだよ。片方は新妻さんと同じ名前の幼馴染でさ……。俺、馬鹿だよな……。二人とも好きだったんだ。でもどちらかと言えば美緒ちゃんのことが気になっていた」


 俺を後ろから抱きしめる新妻さんの体が震えた。


 「それで……?」

 「でももう一人の方からの告白に舞い上がった俺はそれを受け入れちゃったんだ。それからしばらくして美緒ちゃんは引っ越してしまったし会ってない」


 自己中で優柔不断にも程があって新妻さんには失礼になるけど、そういう関係になるのだとすれば俺は新妻さんに美緒を重ねてしまう。


 「そんなことがあったんだ……。でもいいよ、私と美緒ちゃんを重ねても。そして美緒ちゃんを好きだったって気持ちを思い出して欲しいの」


 俺を抱き締めていた手を解くと新妻さんはベッドに座った。

 そして隣をぽんぽんと叩く。

 新妻さんごめん……。

 どうしても重なってしまった美緒の姿に俺はその夜、新妻さんと一線を越えた。

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