第28話 二人の重なる過去(2)

 「陽菜は帰ったか?」

 「うん、下駄箱で見送ったから心配いらないよ!」


 やっぱり私を帰すためだったんだ……。

 朱音の後を追って教室に戻ると委員会の仕事があるはずの悠佑がそこにいた。


 「あいつも馬鹿だよなぁ。もう少しは疑えっつーの」


 悠佑が笑って言った。


 「真面目ちゃんが損をするのはいつものことだよ」


 二人は、私が聞いてるとも知らずそんな言葉を交わし合う。

 いつから私のことをそんなふうに思っていたんだろうか。

 いつから二人は関係を持っていたんだろうか。

 邪魔でしかない私と交友関係を続けているのは私への憐れみ?

 それとも気付いていない私を見て面白がっていたの?

 堰を切ったように溢れ出る感情。


 「ごめんな、学校でしか出来なくて」


 悠佑の手が朱音へと伸びる。

 迷いを感じさせない慣れた手つきは、私に隠れて二人がこういうことをしていた何よりの証拠なのだろう。


 「いいよ、家じゃ弟とか親がいてそんなにできないし、むしろこっちの方が集中出来る」

 

 何をするかはすぐに分かった。

 朱音がスカートをたくしあげると悠佑が下着を取り去る。

 

 「本当はラブホとか行ければいいんだけど、俺達には金銭的に厳しいし、そもそも入れないし」

 

 こっそり二人の行為を除く私の中に黒い感情が芽生えるのが自分でも分かった。

 私を騙していたという被害者意識は強まるばかりで、スマートフォンの録画機能をオンにする。

 そしてカメラ部分だけを教室のドアガラスから覗かせて一部始終を録画した。


 「そろそろいいか……?」

 「来て、悠くん」


 録画されてるとは知らずそんなやり取りをする二人。

 これでもう二人は逃げられない、そう思った。

 自分がしてることは常識的に考えれば悪いことというのは後から感じたこと。

 この時の私は裏切られたという絶望感、教室でしちゃいけないことをしている二人を密告するんだという使命感、二人に復讐してやりたいという暗い感情に支配されていた。

 二人の行為が終わったタイミングで録画を終えると私は家に帰った。

 帰宅後、録画した光景をどうしてやろうかと見返す私の頬には涙が伝っていた。


 「なんで二人は私を……」


 裏切られたという気持ちで張り裂けそうになる胸、でも私が悲しいのはそれだけじゃないことは直ぐに分かった。

 好意を抱いていた悠佑が朱音のものになってしまったことへの喪失感、さらには親友二人の新たな関係を素直に祝福できない自分への失望感。

 

 「あぁ……私ってこんなにも嫌な人間だったんだ……」


 あまつさえ録画した映像で二人を追い詰めてようとさえ思った自分に辟易した。


 「もう私……っ……」


 顔を埋めた枕はあっという間に湿った。

 次の日からどんな顔で学校に行ったらいいのかも分からなくなって、私は学校を休むようになった。

 悠佑と朱音の二人は時折、心配するような様子で電話を寄越してきたけど出ることはなかった。

 それでも自分は受験生だったし先々のことを考えて最低限の出席日数だけは学校に行くという計画的な不登校。

 私は益々自分が嫌いになった――――。

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