第26話 好奇心が勝った早見さん。
中間テストの一週間前となった。
テスト週間といって、この週からテストまでは基本的に部活が無くなるのだ。
「――――というわけで、本業である勉学にしっかりと取り組むように」
担任がそう締めくくって帰りのSHR《ショートホームルーム》はお開きに。
クラスメイト達が教室を出始めると、美緒が俺の袖をちょんちょん引っ張った。
「どうした?」
「ねぇ、この後なんだけど図書室で勉強しない?色々教えて欲しいところがあるから」
勉強が嫌いな美緒から誘ってくるのは珍しいな。
そんなことがあると何か裏があるんじゃないかと疑いたくなるのが人の性というもの。
「なんか別の目的でもあるのか?」
「ん〜うぇへへ……な、無いかな」
顔をニヤニヤさせて後、美緒は慌てて否定した。
もうそれ、あるって言ってるようなものだろ……。
「素直に言わないと勉強に付き合わんぞ?」
「あれぇ?怜斗くんは勉強で困ってる女の子を見捨てるほど薄情な人間なのかなぁ?」
美緒はニヤニヤしながらクラスメイトにも聞こえるような声で言いやがった。
注がれる視線に居心地の悪さを感じた俺は仕方なく言うしか無かった。
「わかったわかった。図書室に行こう」
こういうところは本当に強かだなと思わせられる。
まぁこれで嫌いになるなんてことは無いけど。
男の性分なのか女子に頼られると悪い気はしないのだ。
「最初からそう言ってくれればいいんだよ?」
美緒はニコッと笑って言った。
◆❖◇◇❖◆
「最近あの二人仲良くなーい?」
決して二人の動向が気になったわけではないけれど、私は親友の悠亜を誘って図書室へと来ていた。
「そ、そうかもね」
ちょっと離れた机にいる二人は、対面でもいいはずなのに隣合って勉強をしている。
「あれれ?もしかして陽菜は気が気じゃない感じ?」
「やだなーそんなわけないよ」
そう言ってその場を取り繕うことで悠亜の質問攻めは回避する。
でも勉強に身が入ってるかと言われるとそんなことは無いのだ。
二人がどんなやり取りをしているのかが凄く気になる。
思い立ったが吉日、善は急げだ、ちょっと二人のやり取りを聴いてみようかな。
「ちょっと参考書取ってくるね」
「んー」
適当なノートで顔を隠して二人へと近づく。
バレたら警戒されちゃうから素知らぬ振り、今の私は早見陽菜じゃなくて通りすがりの女子生徒Aなの!
そんなことを自分に言い聞かせつつ、二人のそばを通り過ぎる。
そして二人のすぐ近く、なんなら前の席にガッツリ座った。
「ふぅ…まずは第一関門突破したかな?」
安堵感からの自問自答。
って何が通りすがりの女子生徒Aよ!?
座っちゃったじゃん!
確実性よりも好奇心が勝ったってことなのかな?
でも座っちゃった以上は、しっかり二人のやり取りに耳をそばだてることにしよう!
一言一句漏らさずに聞くのだ。
なんならノートとペンもあるからメモだってとれる!
「なぁ美緒、お前の手なんだが……さっきからどこを弄ってるんだ?」
「むふふ〜、口の方がイイ?」
い、いきなり不穏な言葉が!?
手で弄るって……て、手コキ!?
公衆の面前でなんてハレンチな!?
み、見てみたい!
何だかマナー違反な気もするけど、好奇心が勝った私は消しゴムを足元に落とした。
そして拾うフリをして後ろのテーブルを椅子の脚の隙間から見る。
美緒さんの左手が、和泉くんの股間をまさぐっていた。
「ねぇ怜斗、ちょっとムラムラしてきちゃったから、あっちの書棚の方行かない?」
「誰かに見られたら一巻の終わりだぞ?」
「大丈夫だって、もし誰かに見られるようなことになったらいっそのことオカズにしたくなるくらい見せつけてあげよ?」
え、なんかすんごいこと言ってるんですけど!?
自分でも目を白黒させてしまっているのがわかる。
多くの生徒達が利用する参考書のコーナーは書棚の手前にあって奥の方は古い本が多く、それに通路がちょっぴり入り組んでいて誰も寄り付かない。
つまり書棚の奥の方は、えっちなことをしてもバレないはず……。
「はぁ……美緒は言い出したらキリがないから頭が痛いよ」
美緒ちゃんが立ち上がると和泉くんが渋々と言った様子で立ち上がる。
覗き見するべきなのかしない方がいいのか……う〜ん……。
普通なときなら、気になってても見に行かないべきなのに私の脳はこの遭遇エロイベント(自分から遭遇しにいった)を前に絶賛バグを起こしている真っ最中。
見に行かないべき、なんて考えはなくて代わりに見に行くべきとかいう変な選択肢が生まれていた。
清純そうなキャラで通ってる私はこれでも思春期の女子高生、気になっちゃうのは仕方ないことなの!
よし、ちょっとだけ見に行こう!
これが残念な私の選択結果だった――――。
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