第10話 好きになるのはまだ早い

 「――――っていうことがあって、私達の関係を早見さんに言っちゃった」


 恥ずかしかったのか新妻さんは、はにかみ笑顔で言った。

 まぁ、早見さんならいろいろ弁えてそうだし心配するようなことは起きないだろう。

 たぶん新妻さんもその辺はわかっているはずだ。


 「ちなみに何で人に話したんだ?」


 どうしてその行動に至ったかを聞かせて貰うとするか。


 「えっとそれは……なんて言うか誰かに和泉くんとの関係を惚気てみたくなっちゃって……」


 所在なさげに頬を掻きながら新妻さんは視線を逸らした。


 「惚気って……俺達そこまでの関係じゃないだろ」


 この数日間、毎食共にして一緒に学校をに行って帰ってきて、時たま体を重ねてるだけ。

 いや待てよ?これってほぼ同棲だし、ただのセフレの関係以上ではあるのか……?


 「そこまでって……でも皆してるよ?バイト先の男を全員穴兄弟にしたとか、竿姉妹になっちゃったとか」


 おいおい……最近の女子高生はフランス人もビックリなくらい性に対してオープンなんだな。

 俺も最近の高校生のはずなんだが……。


 「もうそれ惚気話じゃなくてただの猥談だろ」

 「それはともかく、そこまでの関係じゃないって言葉を取り消して貰えるかな?少なくとも私は本気なの」

 「新妻さん……?」


 声を壁越しに聞いた時から、変態な人かもしれないとは思っていだが、それもまた俺への好意の上にあるというのか?


 「でもね、私は今の和泉くんとは結ばれたくないかな……」

 「それはどういう?」

 「強いて言うなら、本当の私を知って好きなってから結ばれたいなって」


 本当の新妻さん……?

 今のが偽者だとでもいうのか?


 「こればっかりは私が教えるんじゃなくて、和泉くんが自力で答えに辿り着いて欲しいかな」

 「でも知る方法が――――」


 知る方法がないって言おうとしたら、 新妻さんが人差し指を俺の唇に押し当てた。


 「もしかしたら私がピロートークの話題で話すかもしれないよ?」

 「ピロートークって……それまで俺はヤり続けるのか?」

 「むふふふ、とりあえず私と一緒にいれば嫌でもわかるよ」


 嫌でもわかる、そう言った新妻さんはどこか伏し目がちだった。

 なんともいえない沈黙が漂って、どうしたものかと思ったところに、お風呂が沸いたことを伝える音がなった。


 「あ、お風呂沸いたみたいね」


 新妻さんはそれに気付くと、もはや見慣れた小悪魔的な表情を浮かべた。


 「お風呂にする?ご飯にする?それとも、わ・た・し?」


 最後はお尻を後ろに突き出して可愛くポーズをキメた。

 その頭を俺はこれから調理に使おうと持ってたゴボウで軽く叩く。


 「ご飯はまだ出来てないだろ?新妻さんも手伝ってくれ!」


 「嫌でもわかる」と言ったときに新妻さんの見せた曇った表情、俺は「本当の新妻さん」とはどんな人なのだろうか、と気になった――――。

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