第11話 ピロートークと焦り
「ねぇ、もう今更感あるんだけど……その…えーっと……」
行為に
「恋人らしい生活してみない?」
最後にかけてだんだん声が小さくなりつつも新妻さんは、どうにか聞こえる声で言った。
「どういうこと?」
「だって、唾付けとかなきゃ和泉くん誰かに取られちゃいそうな気がするから」
「お、おう……」
面と向かってそういうこと言われると照れてしまう。
現在進行形で二人して恥ずかしい格好であるにも関わらず、それに対しては照れないのだから慣れとは怖いものだ。
「それとも私を安心させるために規制事実でも作っとく?」
布団をずらすと新妻さんは俺の上へと跨った。
「さっきしたばかりだろ?」
「でもね、あれは回数にいれない」
疲れて休憩してたんだから回数にいれてもいいだろ……。
「なんでか知りたい?」
「あぁ」
頷くと新妻さんはクスッと笑う。
「そういうことしてるときくらい名前で呼んでくれてもいいのに、新妻さん新妻さんって言うんだもん」
だもんって……。
可愛いじゃねぇかコンチキショー。
「でもいまいち、女子のことを名前で呼ぶのって抵抗があってさ」
今までの俺の人生で名前呼びした女子はたった二人。
元カノである瑞葉と、幼馴染の美緒くらいだ。
美緒に至っては女子を名前呼びすることに抵抗を覚える以前である小学生の頃の話だし。
「でも元カノのことを名前で呼んだのなら、私のことも名前で呼べるはずだよね?」
「ちょっと時間をくれないか?」
いきなりは呼べる自信がない。
「今呼んでよ。じゃないと次から下着みたいに穴あきにしちゃうよ?」
そう言うと蠱惑的な笑みを浮かべてコンドームを口に咥えると包装を破って、取り出したそれに長めの爪を突き立てて見せた。
傷ついてしまえばそれだけで破れることにつながることくらいは俺でもわかる。
「わかったよ……頑張ってみる」
「ますます燃え上がっちゃうかも。でもベッドの上以外でも名前で呼んで欲しいなって」
蠱惑的な笑みは、なりを潜めて嬉しそうに笑うと美緒は抱きついた。
「なら、名前呼びでもう一回戦しよ!」
「明日も学校なんだからほどほどにな?」
と言いつつ俺も思春期の男子高校生、その晩は一回戦してから休憩を挟んでワンセットすることになったのだった。
◆❖◇◇❖◆
名前呼びをしてくれるようになったし一歩前進したのかな……?
スヤスヤ寝息を立てる怜斗くんの寝顔を見つめる。
目にかかった前髪を指でそっと払うと綺麗なまつ毛があった。
「いつになったら私が『みーちゃん』だって気付いてくれるのかな?結構、ヒントは出してるつもりなんだけど……」
目の前で寝息を立てている彼は全く困った人だ。
今日、私がこんなにも大胆に名前呼びを迫ったのは、とある会話を聞いてしまったからにほかならない。
『実は、この前に近くのスーパーで和泉くんとばったり会ったんだけど、一人暮らししてるみたいで普段の弁当も自作みたいなんだよね!』
一軍の女子グループで、早見さんがしていた会話を私は小耳に挟んだ。
その続きが気になって落書きばっかりの背面黒板を消すフリをして耳をそばだてた。
『え、マジ?めっちゃ女子力高いじゃん!?』
『前髪でちょっと分かんないけど、和泉くんって多分顔整ってる方だよねー』
『成績もいつも上位五十名内で張り出されてるっぽいし唾付けとこうかな!』
概ね女子たちからは好評だった。
私なんて表面だけの自分を変えたはいいが男達が煩わしくなったのもあって自分から目立たないような身なりにしてるけど、そこまで自身がある方ではない。
だから私はちょっぴり焦りを感じている。
もちろん、セフレでありほぼ同棲とも言えるこの関係はアドバンテージではあるものの怜斗くん次第では、すぐに終了してしまう可能性もある。
何かひとつ、決定打となるものが欲しいのだ。
このまま行けば付き合うことは簡単にできると思う。
でも本当のわたしを知ってからの方が二人のその後を考えれば絶対に良いはず、それを怜斗くんから自発的に知ってくれるのなら尚更いい。
でも決定打を私はまだ思いつかないでいる。
だからここは延命治療みたいなものだけど、いわゆる外堀から埋めるという方針に切り替えることにした。
お願いだから怜斗くん、早く本当の私に気付いて……?
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