第12話 シャワーと瑞葉のメッセージ

 最近は美緒に起こしてもらう形で朝を迎えていたが今日は勝手に目が覚めた。


 「むにゃむにゃ……怜斗くん……」


 生まれたままの姿で隣で寝言を呟く美緒は幸せそうにしている。


 「……まだ……足りないよぉ……」


 おい、どんな夢を見てんだよ。

 この変態が見る夢だから多分、ろくでもない夢だろうことは容易に想像がつく。

 起こさないようにそっとベッドから降りるとスマホに通知が入ったのが視界に映った。


 『久しぶり、元気してる?』


 ありふれたそれだけのメッセージ。

 でも送ってきた人は元カノだった。


 「今さら何の用があるんだよ」


 俺は既読もせず返信するべきか否か悩んだ。

 別れたのは高校に上がる前のこと。

 瑞葉のことを本気で好きになれなかった俺は、幾度となく別れを切り出した。

 それでも中三まで関係が続いたのはひとえに瑞葉が望んだからに他ならない。

 故に俺は互いにとって無為になる時間を減らすために最後は少しばかり厳しい言い方をしてしまった。

 そんなことがあって暫くの間、まるで腫れ物に触れるかのように互いを避けあっていた。

 きっとこのメッセージを送るのに、瑞葉も思うところがあったはずだ。

 なら俺が返信しないのは、不誠実な対応になってしまうだろう。

 でも何て返すべきか、何を話すべきかも分からない。

 それくらいに俺と瑞葉は疎遠になってしまっていた。

 俺が撒いた種だからこうして悩むことになるのは仕方ないことなのかもしれない。

 とにもかくにも、シャワーを浴びてから調理でもしながら考えようか。

 

 ◆❖◇◇❖◆


 「私も一緒に浴びてもいい?」


 後ろで不意に美緒の声が聞こえた。


 「その……しないぞ?」


 学校があるから朝から疲れるようなことは避けたいし、まだ朝食や弁当の支度もしなきゃいけない。


 「私もする気はないけど?ひょっとして期待してた?」


 そう言うと美緒は胸板を人差し指でちょんちょんとつついた。


 「これは生理現象だからな?」

 「男性は大変だね」


 そう言うと美緒は俺の下腹部を見て笑った。


 「そうだよ、授業中に寝落ちして起きたらこうなってることもある」

 「なら、今朝はやめとく。キリがなさそうだし」


 ちろっと覗かせた舌を悩ましげに動かすと俺の傍に寄って一緒にシャワーを浴びた。


 「起こしちゃったか?」

 「うん……でも気にしないで?怜斗くんが何か抱え込んでそうだから来ただけ。私の意思だから」

 「気を使わせて悪いな」

 「聞かせてくれる?」


 濡れそぼった長い髪を弄びながら美緒は上目遣いで俺を見上げた。


 「元カノとの話だけど、それでもいいのか?」


 美緒は僅かに伏し目がちになったが暫くの沈黙の後、意を決したかのように頷いた。

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